飲み会で肩に手をかけた――。このセクハラで「慰謝料5万円」の判例がある。実際のセクハラ慰謝料は、程度、期間、内容によって、かなり上下する。もし、会社でセクハラ事件が起きたら、どう対処すればよいか。慰謝料の目安はいくらか。そして、解決の肝は。労働問題を扱う弁護士が教える。
どちらが経営者か、わからない……。

あるある、圧倒的な実力者によるセクハラ

私の経験から言って、セクハラの加害者は、抜群の“数字”を背景に社内で発言力を持っている者が多い。「オレは会社にとって必要な人材なのだから、社長も無下にはできないだろう」という自惚れが、意識の根底に流れている。

弱腰な経営者の会社では、こういった”勘違い幹部”が幅を利かせることになる。経営者が直接注意しても「何を言っているの?」と言わんばかりに相手にしないことすらある。もし、その場面をほかの社員に見られでもしたら、経営者は威厳を失うことになってしまう。

実際によくある話をする。若手の女子社員から「営業部長にセクハラを受けた」という告発があった。それも、肉体関係も含めてだという。加害者は、圧倒的な実績を持つ実力者。こういった苦々しい状況で「島田さん、何とかして」と頼まれると、何ともやるせない気分になる。「経営者なら自分で何とかしなさいよ」と感じることもある。さりとてむげに断れば、被害にあった女性が、あまりにもかわいそうだ。

そこでしかたなく”社長の参謀”として知恵を絞ることになる。ただ、私は自分がいきなり表に出るようなことはせず、黒子に徹するのが通常だ。目的は、経営者自身に被害者にも加害者にも向き合ってもらうためだ。事件を解決するだけなら、代理人として私が表に出たほうが手っ取り早いし、費用もいただきやすいが、それでは経営者の面目が立たないとも思うからだ。

「社員の言い分」を裏づける客観的な資料とは?

セクハラ問題への対処は、事実の確認から始まる。女性の涙の訴えを目にすると、正義感に駆られ、「あいつはどこに行った!」といきなり加害者とされる男性を呼び付けてしまう経営者が少なくない。加害者が事実を否定する、ということをまったく想定していないため、名誉棄損、あるいは侮辱と加害者から逆襲されかねないので注意が必要だ。

たしかに、女性の自作自演、あるいは男性との合意の上だったという事案もあった。事実として何があったのかを、客観的な資料で確認すべきだ。客観的な資料とは、女性の言い分を裏付ける「メール履歴」などといった動かしがたい資料のことだ。言い分しかないときには、ICレコーダーなどで新たに資料を確保するよう、女性にアドバイスしていただきたい。

会社として調査する際には、調査していることが相手に発覚して、女性が二次的被害を受けることに注意を払わなければならない。「彼女と営業部長との関係について教えてほしい」と他の社員にたずねれば、「彼女と営業部長ができている」という噂になりかねない。噂の怖いところは、根拠のないものであるほど、広がるにつれて話が具体性を帯びてしまうことだ。会社として調査を始める前に、誰まで情報を共有していいのか、被害者である女性に確認をとっておくべきである。

まれに「"男女の問題"は当事者で解決してくれ」という経営者がいる。これは100パーセントNGだ。会社には、職場が社員にとって働きやすい環境であるように配慮する義務がある。これを一般的には安全配慮義務という。女性からの申し入れがあるにも関わらず放置すれば、会社の安全配慮義務違反と指摘されてもやむをえない。

調査をして、セクハラの事実があったとする。この場合には、然るべき慰謝料を被害者に支払うことになる。明らかに業務から離れた私生活のことでない限り、会社は責任を免れない。では、その額はいくらか。