「医師不足」が問題になっている。日本では年間約4000人ずつ医師は増えているが、都市部に集中しており、地方部では医師不足が深刻化している。ジャーナリストの沙鴎一歩氏は「医師不足は、医師の偏在に問題がある。地方勤務を制度化すべきだ」と訴える――。
読売新聞の社説(12月4日付)。見出しは「医師の偏在対策 都道府県の調整力が問われる」。

主因は「医師の偏在」にある

医療現場から「医師が足りない」との叫び声が上がって久しい。最近になってやっと問題が「医師数の不足」そのものにあるのではなく、「医師の偏在」にあることが指摘されるようになってきた。

医師そのものの数が足りないのか。それとも都市部に医師が集中し、地方で不足しているのか。診療科ごとに偏りがあるのだろうか。これまでさまざまな議論が尽くされてきたが、沙鴎一歩は10年前から問題は「偏在」にあると主張してきた。

医師が特定の診療科に集中する偏在や地域的偏りを解消しなければ、私たちの健康が危なくなる。

そもそも医師不足は、2004(平成16)年度から「臨床研修制度」が導入された結果、発生した。この制度は医師免許の取得後に2年間、診療研修を積む制度だ。それ以前の研修は出身大学の医局を中心に行われていた。それが同制度によって研修医が研修先の病院を自由に選択できるようになり、症例が多く勤務条件の良い都市部の民間病院に希望が集中し、大学病院が働き手の研修医を確保しにくくなった。

そこで大学は周辺の関連病院に派遣していた医師を次々と引き揚げた。その結果、医師が足りなくなったわけだ。

不足しているのは「病院勤務医」

長時間の夜勤勤務など仕事がきつくなり、疲れ切った勤務医が病院を辞め、産婦人科や小児科が閉鎖されていく。救急隊が連絡しても「医師の手が足りない」と病院に断られる。医師不足が深刻化すると、こうした事態が全国で次々と発生する。

現在、勤務医は全国に30万人ほどいる。医学部の定員を増やすことで医師の数自体は年間、約4000人ずつ増えてきたが、それでも足りないというのだ。なぜだろうか。

不足しているのは病院勤務医だ。医師の数を増やしても、医師は楽に働けてそれなりにもうかる「ビル診」(オフィス街のビルの診療所)などの開業医に流れる傾向が強い。それに大学医学部の定員数を増やしても、実際に医師数が増えるには少なくとも10年はかかる。すぐには効き目が出ない。