変化やチャレンジに消極的な人がいると、職場の生産性は上がりません。しかし、どんな職場にも「やる気がない社員」はいます。どうすればいいのでしょうか。トヨタ自動車では、現場のチームワークを活性化させる独自のメソッドを確立しており、子会社のOJTソリューションズを通じてコンサルティングを行っています。「トレーナー」を務めるのは、40年以上、現場を勤めた元トヨタマンたち。今回は、そのメソッドをまとめた『トヨタの現場力 生産性を上げる組織マネジメント』(KADOKAWA)から、3つのコツをご紹介します――。

(1)「ラクをしたい気持ち」を刺激する

トヨタでも、いつもの仕事とは異なる新たな取り組みが現場から歓迎されることは稀で、「余計な仕事が増えた」と面倒がられるケースが大半です。このような“極力面倒なことを避けたい”という傾向が強い人には、人のある根源的な性質を利用しましょう。

(株)OJTソリューションズ 『トヨタの現場力 生産性を上げる組織マネジメント(KADOKAWA)

人は様々な特性を持っていますが、その1つに「ラクをしたい」というものがあります。皆さんにも、大変な仕事を前にしたときに「面倒だな。もっとラクにできないか」と反射的に思ったり、本来やるべきことではあるもののこっそり手を抜いた経験はないでしょうか。新たな取り組みを面倒に思う人の気持ちにも、この「ラクをしたい」という根源的な特性が潜んでいます。

改善活動などの新たな取り組みに対するよくある誤解は、「今よりも大変になる」というものです。2時間の作業を1.5時間に短縮するための取り組みを事例に、考えてみましょう。2時間の作業を全てそのまま1.5時間でやるのは「大変になる」ことですが、不要なプロセスやムダを省くことで1.5時間でできるようにするのは「ラクになる」ことです。もちろん、取り組みをしている最中は一時的に定常業務以外に改善活動が追加されますが、長期的にトータルで見た場合には「ラクになる」ケースが大半です。このように、新たな取り組みを現場がラクになるための手段と理解してもらえれば、後ろ向きだった気持ちを前向きにすることができます。

▼まずは「困りごとヒアリング」から

その時に有効なのが、「困りごとヒアリング」です。これは弊社の元トヨタマンのトレーナーが顧客先で改善活動をする際に活動初期によく行うもので、実際に現場で困っていることを担当者・作業者にあげてもらい、それを1つずつ解決していく取り組みです。改善活動を加速する原動力として使われることも多いのですが、スムーズに進めるためにはポイントが2つあります。

1つは、取り組み対象を現場目線での困りごとに限定すること。トヨタで改善を行う視点として、ムリ・ムダ・ムラがありますが、「困りごと」で聞くのはムリ=現場で大変だと感じていることに限定します。これは、ムリの改善が現場にとってメリットを感じやすいこと、「ムダ」を指摘されると自分の仕事を否定された気持ちになりやすいことが理由です。

もう1つは、提案された困りごとには、必ずリアクションをすること。これはすべての困りごとに対策を講じるという意味ではなく、予算等の制約で対策が取れない場合にもその理由を添えて伝えるということです。多くの現場では、「どうせ提案しても取り上げてもらえない」「何も変わらない」というあきらめが蔓延しています。その気持ちを振り切って出してくれた提案に対して無反応でいると、これまでに増して後ろ向きな状態になってしまいます。きちんと提案内容を検討してもらった喜びは、その後の活動に大きなプラスとなるのです。