意識の高い業界では、よく「カタカナ語」が飛び交っています。でも本当の意味をわかって使えているでしょうか。恥をかく前に、確認しておきましょう。「カタカナ語」の功罪について、英語学が専門の慶應義塾大学教授・井上逸兵さんに聞きました――。

相手がわからなければ優位に立てる

フレームワーク、コモディティ……。なぜ人は一般的でないカタカナ語を使いたがるのか。理由はいくつか考えられます。

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ひとつは、単純に格好がいいから。普段使われない言葉を使うことで、「自分は外国の言葉や文化を知っている」という自己顕示になります。相手がわからなければ優位に立てるし、議論で煙に巻く効果もあるでしょう。逆に、共有関係をつくる手段としても有効です。特定の言葉をお互いに知っていると、「この言葉を使っても大丈夫」という安心感から仲間意識が生まれます。

そして日本語に置き換えるのが難しく、カタカナでしか表現しようがない言葉もあります。IT業界では日進月歩で新しい概念や言葉が生まれ、日本語に訳している暇がありません。明治時代の初期、日本になかった外国の概念が入ってきたとき、啓蒙思想家たちは「ソサエティ」を「社会」など、訳語をつくっていきました。それがだんだん間に合わなくなり、カタカナ語が増えていった経緯もあります。

また、古くからあったものを新しく見せる手段としても使われます。「国際交流」を「国際コミュニケーション」、「環境影響評価」を「環境アセスメント」……。看板だけをすげ替え、予算獲得を目論む省庁にありがちな手法です。

そもそも日本語は外来語を定着させるのが、得意な言語と言えます。たとえば「アテンドする」「コミットする」の「する」を取って名詞にしてしまいます。「コミット」は動詞なので、名詞なら「コミットメント」のほうが正確なのですが、英語にサ変動詞の「する」さえつければ動詞になるのでこんなワザができてしまいます。また「ブリリアントな」のように、英語の後に「な」をつければとりあえず形容詞になる。他の言語では、こんな簡単に自国語に変換できるとはかぎりません。