トランプ大統領が就任後初となる訪日を行った。安倍晋三首相とゴルフを共にするなど歓待ぶりが大きく報じられたが、米国民は一連のアジア歴訪を冷ややかにみている。トランプ大統領の支持率は40%で歴代最低を更新中。起死回生を狙ったアジア歴訪も不発だった。米国民が評価するのは、むしろ安倍首相の「したたかさ」だ。どういうことなのか――。
(写真=White House/ZUMA Press/アフロ)

米国民の6割は「完全な失敗」と落第点

鳴り物入りで行われたドナルド・トランプ米大統領のアジア歴訪から3週間がたちました。アジア歴訪で起死回生を図ろうとしたトランプ大統領でしたが、米国民の6割はアジア歴訪は「失敗だった」と落第点をつけています。「成功だった」と答えた米国民は38%。トランプ大統領の政策全般についての支持率は40%(不支持率59%)と最低記録を更新しつづけています(※1)。

※1:"Poll:Trump job approval hits new low,"Jonathan Easley,The Hill,11/17/2017

聞こえてくるのは、「トランプ大統領は中国のワナにはまった」「中国の顔色を見る韓国の文在寅大統領にうまくあしらわれた」「安倍首相は歓待外交で難題を先送りした」といった声です。トランプ大統領のアジア歴訪は裏目に出たようです。

ゴルフ、拉致被害者、元慰安婦、独島エビ

安倍晋三首相とのゴルフに始まり、北朝鮮拉致被害者家族との面談、韓国では元慰安婦を抱擁し、「独島エビ」に舌鼓を打ち、北京では習近平国家主席と紫禁城での京劇観劇などなどビジュアルな大名旅行でした。絵にはなりました。しかし目先の外交懸案はどうなったのでしょう。

まず、北朝鮮の核・ミサイル開発の即時停止問題について。出発前、トランプ氏は「最大のアジェンダは北朝鮮の核ミサイル開発を無条件で止めさせることにある」と大見得を切りました。

確かに北朝鮮の金正恩委員長は、9月12日以降、核・ミサイル実験を中止しています。

大統領のアジア歴訪中には3隻の米空母を朝鮮半島周辺に展開させて「身辺護衛」にあたらせていたんですから、ここで北朝鮮がミサイル実験でもすれば第三次朝鮮戦争が勃発するところでした。いくら「窮鼠(きゅうそ)猫をかむ状況にある金委員長」でもそこまではできませんでした。

宋濤訪朝の不発で「テロ支援国家」指定に踏み切る

トランプ氏のアジア歴訪直後、習近平国家主席はピョンヤンに党中央対外連絡部の宋濤部長を派遣し、金委員長の最側近である崔竜海副委員長らに米中首脳会談の中身を伝えたようです。宋氏の訪朝は中朝メディアでも大々的に報じられました。

微妙な外交折衝は「秘をもってよしとなす」。今後の動向を見ないと何とも言えませんが、北朝鮮を説き伏せる「特効薬」にはなっていません。習近平氏としては一応、トランプ氏の願いを聞いて北朝鮮に話してやったぞ、といったくらいのものなのか、どうか。トランプ氏はこの訪朝に期待を寄せているようです。

しかし宋特使が北京に戻った11月20日、トランプ大統領は北朝鮮を「テロ支援国家」(※2)に再指定しました。ということは、北朝鮮は中国の説得(米国の意を受けた「核・ミサイル開発無条件中止」要求)を拒否したためと理解していいでしょう。

※2:「テロ支援国家」(State Sponsors of Terrorism)指定とは、米国務省が79年以降、テロを支援したり、かくまったりする国家を指定し、指定国への武器関連の輸出・販売禁止、経済援助の禁止、金融規制を行うアメリカ合衆国法典。北朝鮮に対してはブッシュ政権(子)の時に07年の6カ国会合での合意を踏まえて解除、現在まで続いていた。これら経済制裁はすでに国連安保理決議等ですでに実施されており、今回の解除はあくまでもシンボリックなものにすぎない。