王将の大東社長は店内で料理をしていることについて、「料理人は包丁を使わないと魂がなくなる」という。だが、それだけではないだろう。セントラルキッチンであらかじめカットされた野菜より、客の目の前で切ったほうが新鮮で味もいい。カット口からの酸化やビタミン類の流出を避けられるのだ。

では、会計的な面から分析すると、カット野菜を使わないメリットはどこにあるのだろうか。公認会計士、柴山政行氏の分析はこうだ。

<strong>脱「セントラルキッチン」方式で損失コストを削減</strong>:多くの外食チェーンが工場で食材を事前に加工し、店舗運営を効率化している。加工賃などのコストが上積みされるため、ロスになると損失コストが大きい。

脱「セントラルキッチン」方式で損失コストを削減:多くの外食チェーンが工場で食材を事前に加工し、店舗運営を効率化している。加工賃などのコストが上積みされるため、ロスになると損失コストが大きい。

「セントラルキッチンは効率的です。しかし、その半面、店舗まで配送した調理済み食品がロスになった場合、損失コストが大きく膨らむ欠点があります。材料がロスになった場合は材料代だけが損になるわけですが、調理済み食品にしてしまうと加工したコストも損失になる。これは大きい。

その点、王将ではキャベツや玉ねぎなどの野菜は材料のまま店舗に送っています。ロスになったとしても加工賃は加算されない。損失は限定的です。それに、野菜はいくらでも使い回しができる。キャベツは野菜炒めにも、ホイコーローにも使えるので、廃棄にまわす野菜は少なくなるでしょう」

また、柴山氏の調査によれば王将の在庫回転日数は1.4日分しかない(業績のいいファミレスでも在庫は14日はある)。材料の回転はよく、客とすれば新鮮なものが食べられる。店舗としては在庫を持つ量が少なくて済むので、保管スペースがいらないし、在庫にかかる金利負担も少ない。材料の回転がいいことも王将の強みのひとつだ。

また、王将はセントラルキッチンを使っていないわけではない。主力商品の餃子のあんと皮、麺類の麺はセントラルキッチンで内製している。セントラルキッチン・システムの効率だけを活用しているのだ。

そして、大東社長が胸を張るのは「うちは店長以下、従業員がちゃんと料理の腕を持っている」ことだ。

「ファミレスは届いたものを温めて出すだけ。王将の従業員は料理できるから材料を見て工夫ができる」

現在、王将は約530店舗あり、各店に平均3人の料理人がいるから、全体では千数百人を超える。飲食チェーンでこれほど多数の料理人を擁している企業はほかにない。だが、1人の料理人を育てるには3年から5年かかるため、大量出店はできない。

「直営では1年に30店舗を出すのが精いっぱい」(大東社長)

料理人を育てるには時間もお金もかかる。短期的な拡大や利益を考える経営者は絶対に採用しない方策だろう。しかし、王将は時間をかけてじっくりと店を増やしてきたからこそ、各店にファンがついた。不況になっても王将が快調なのは冷凍食品主体でなく、プロが客の目の前で熱々の料理を作っているからだ。

※すべて雑誌掲載当時

(石井雄司=撮影 ライヴ・アート=図版作成)