時代を読み解く「軸」を持つには、どうすればいいか。国際政治学者の三浦瑠麗氏は「時代の問いに、時代の言葉で答える」という目的のために「政治学」を用いる。今回の衆院選について、三浦氏は「諸外国と同じく、日本でも『センターライト(中道右派)・ポピュリズム』の存在感が増している」と分析する。今後日本はどうなっていくのか――。

総選挙の対立軸

選挙を間近に控え、どの候補者に、あるいはどの党に投票するか案じている人も多いのではないでしょうか? 本稿では、私なりに今回の選挙をどう見ているかお伝えしたいと思います。

総理が解散に打って出る観測が高まったころ、私は、総選挙の対立軸は改憲問題であると言っていました。与党及び改憲勢力が衆参で2/3の議席を占めながら、改憲の具体的な論議は進んでいなかったからです。その停滞感は、本年5月に9条3項加憲、自衛隊明記の総理私案が提示されて以降も変わりませんでした。特に、与党の一画をなす公明党の煮え切らない態度が目立っていました。曰く、国民的な議論が盛り上がっていないとか、衆院選を前に憲法の話はできないとか。したがって、総選挙の目的は、与党+改憲勢力で2/3の議席を更新し、公明党に改憲に向けた具体的な動きを促すための賭けであると。

ところが、そこに小池さんが登場したわけです。総選挙に、政権選択風味の味付けが加わりました。

「踏み絵」や「排除」といったカラフルな言葉が飛び交いました。ご案内のとおりの曲折を経て、選挙戦は3極に収斂しています。

自公与党が体現しているのは、経済政策と安保政策に対する現状維持。各種の経済指標が改善し、北朝鮮危機の只中にある中で、経験の蓄積を前面に出した戦い方には一定の合理性があるでしょう。そもそも、自民党には、自分の生活が既存の秩序や利権とつながっていると考える人々による基礎票もあります。

和製リベラルの結集

もう一つ、分かりやすいのが立憲民主党、共産党、社民党による和製リベラル陣営。民進党が分裂して、左派純化路線の下で再結集が可能になりました。リベラルに、わざわざ「和製」とつけたのは、本来であれば経済政策や安保政策において幅があるはずの人々が、安倍政権への拒否感と護憲イデオロギーを介してまとまっているから。

例えば、立憲民主党の枝野さんなどは、改憲私案も出していてガチガチの左派ではないところもあります。安倍政権の対北朝鮮に対する「圧力」に、一定の現実的評価を与える姿勢などは、政権交代を経た野党の成熟と言えなくもない。ポピュリズムの波に飲み込まれずに、信念をもって踏みとどまった姿勢も共感を呼んでいます。

ただ、明確な限界も抱え込んでいます。枝野さんの幅とは別に、支持者がまとまれないからです。労働者の権利という文脈では、正規雇用者と非正規雇用者の利害が、女性の権利という文脈では共働きと専業主婦の利害が、所得再分配では中産階級と低所得層の利害がぶつかってしまう。リベラルをまとめるのは難しいのです。結果として、和製リベラルがまとまれる旗印が、どうしても反政権と護憲になってしまうのです。

もちろん、日本の有権者の2~3割には、護憲イデオロギーを信奉していますから、その層を代表する政党があるのは、健全なのだと思います。とは言うものの、当陣営は100議席に乗せるのが難しい情勢ですから、1/3はおろか1/5に届くかどうかという水準ではあるのですが。