アルコール依存症で苦しむ高齢者が増えている。それは加齢に応じて酒量を減らせなかった結果だ。健康長寿の人は飲酒から「卒業」している。シニア女性誌の元編集長・矢部万紀子氏は「80代、90代の元気な女性筆者は『少量を外食のときだけ』だった」という。いつ「卒酒」を決断すればいいのだろうか――。

「父もお酒を卒業する年頃に」

「お父さん 心苦しいけど『卒酒』を」という投稿が、朝日新聞に載ったのは9月26日だった。投稿者は56歳の女性。父親は90歳。なんというか、実に切ない投書だった。

写真はイメージです

登場人物は3人。女性と父、父の郷里に住む甥っ子。

甥っ子はお酒が好きなおじさんのために、折々にお酒を送ってくれる。だが、娘は父の飲酒が心配だ。若い頃はいくら飲んでも二日酔いしないほどだったが、夏に母が亡くなり、一人暮らしになったからだ。

迷いに迷い、甥っ子に「父もお酒を卒業する年頃になりました」と父の「卒酒」を知らせる手紙を出した。

父への愛情、父の甥への感謝。そういうものがひしひしと伝わってきた。もっと飲ませてあげたいという気持ちも感じられた。

最近のお父さんが飲んでいたお酒というのが、「焼酎の薄いお湯わりを小さな湯飲み一杯程度」とあったのも、切なさを増した。

年齢を重ねることの悲哀

そんな少ないお酒も、卒業しなくてはならないのか。

ごく最近までシニア女性誌の編集長を務めていたので、年齢を重ねることで起きる不具合のようなものについて考えることは多かった。

体力は落ちるかもしれない。さまざまな処理能力も落ちるかもしれない。だけど、60歳を超える大勢の読者と出会い、そのことを深刻にとらえすぎることなく、むしろそのことをしっかり理解した上で、とるべき対策をとろうという前向きな姿勢を実感していた。

それを簡単にいうなら、「シニアですけど、何か?」と私はとらえていて、自分が年を重ねる上でも、それを指針にしようと思っていた。

だが、この「卒酒」の投稿は、ちょっと違った。

年齢を重ねることの悲哀。

そんな言葉が浮かんできた。登場人物がみんな良い人だけに、「年齢を重ねれば不具合は出るさ。でも、軽やかに折り合いをつけましょう」では済まない問題の一つを目の当たりにした気がした。