小売り不況の中、「売上目標20%超」と業績好調なのがディスカウントストア「ザ・プライス」。が、その裏にはトップの厳命を受け、わずか60日で開業を果たした“スーパーな男”の奮闘があった。

北京、横浜、そして今度は西新井へ

<strong>渡辺泰充</strong>●イトーヨーカ堂売場開発第二プロジェクト・プロジェクトリーダー。1959年、大阪府生まれ。近畿大学時代にジャスコで始めたアルバイトで小売りの面白さに目覚める。81年イトーヨーカ堂入社。初めてマネジャーを務めたのがこの西新井店だった。その後北京店店長、ららぽーと横浜店店長等を経て、今回の「ザ・プライス」プロジェクトリーダーに任命される。
渡辺泰充
イトーヨーカ堂売場開発第二プロジェクト・プロジェクトリーダー。1959年、大阪府生まれ。近畿大学時代にジャスコで始めたアルバイトで小売りの面白さに目覚める。81年イトーヨーカ堂入社。初めてマネジャーを務めたのがこの西新井店だった。その後北京店店長、ららぽーと横浜店店長等を経て、今回の「ザ・プライス」プロジェクトリーダーに任命される。

それは突然の辞令だった。

08年7月末のことだ。大型ショッピングセンター、ららぽーと横浜内のイトーヨーカドー店長から新業態開発プロジェクトのリーダーへ。渡辺泰充は急な異動に首をかしげた。新店をスタートさせて1年半も経たない。通常は3年ぐらい務めて移る。それが「明日からすぐ次の仕事にとりかかれ」との命令だ。その内容を聞いて、さらに驚く。

「ディスカウントストアですか」

無理もない。セブン&アイ・ホールディングスの総帥、鈴木敏文会長兼CEOは「日本市場では低価格だけでは難しい」が持論だ。その当人から「ディスカウントストアで利益の出る店をつくるように」と指示が下りた。上層部も一瞬耳を疑ったという。

ただ、鈴木流経営学の基本は「変化対応」だ。市場では所得が伸び悩む中、値上げラッシュが続き、顧客の節約志向が高まった。その変化に対応するため、生活応援型ディスカウントストアを用意する。店名は文字通り「ザ・プライス」。

指示が出たのが6月。上層部は年内が目途と考えたが、7月会長から、「8月末開業」の厳命が下る。急きょ、各部から精鋭が“召集”された。店舗スタッフと一緒に店を立ち上げ、軌道に乗せる特殊部隊だ。そのリーダーとして白羽の矢が立ったのが渡辺だった。