数字、英単語、人の名前や顔……記憶しにくいものを、あなたはどうやって覚えるだろうか。記憶の達人たちに尋ねると、覚えるコツは「3Dと楽しいこと」そして「脳を楽しませること」なのだという。具体的にどんな方法で覚えればいいのか、そのテクニックをくわしく紹介しよう。

奇怪で、おかしくて、ひわいで、不快なほど記憶できる

年号や意味のなさそうな数字、とっつきにくい単語、スピーチ内容……どう見ても覚えにくそうなものをサラッと暗記してしまう、すばらしい記憶力を誇る人が世の中にはいる。さらにハイレベルな、例えば記憶力を競う世界大会で優勝するような人たちは、何万通りもの数字を瞬時に暗記してみせる。「なぜそんなに覚えられるのだろう?」と驚くばかりだ。「特殊能力なのではないか?」と。

しかし多くの場合、記憶の達人たちはずばぬけて頭がいいというわけでもないという。聞いてみるとそこには、記憶のためのほんのちょっとしたコツがあるそうだ。

学生時代に私の後ろの席だったA君は、とりたててガリ勉でもないけれど、上智大学を滑り止めにしてすんなりと旧帝大に合格した。A君はいつも、授業中にちょっとした暗記法を思いつくたびに得意げに披露してくれた。

ある日、豊臣政権下の五大老の説明のときに見せてくれたのは、「前毛特上浮き立つ」という文字。どうやら下ネタらしいので突っぱねると、「前田、毛利、徳川、上杉、宇喜多、つ」ともう一筆。いつも授業中だけで暗記は完璧だというのも「なるほどね」と思ったのをよく覚えている。そして、この「前毛特上浮き立つ」のおかげで、私もいまだに五大老の名はスラスラと出てくる……というか、忘れたくても忘れられなくなってしまった。

記憶大会で優勝経験を持つ科学ジャーナリストのジョシュア・フォア氏によると「置き換えた言葉が異常だったり、不気味だったり……奇怪で、おかしくて、ひわいで、不快なほど記憶しやすい」らしい。それを、今持っている記憶とリンクさせることで、より記憶が定着しやすくなるというのだ。

A君の例でいくと、「前←前田」「毛←毛利」を記憶のトリガー(引き金)として、すでに自分の記憶にある人間(たぶん女性)の体に歴史の知識を結び付け、記憶の基盤となるアンカー(碇)として、記憶を定着させている。さらに、ちょっとエッチなことで楽しく学び、記憶していたわけだ。

特に脳が記憶しやすいのは「楽しいこと」、それから「失敗」や「間違えたこと」など。そして、映像や空間に配置されたものも長期記憶に残りやすい。ここから考えると、どうやらA君の下ネタ暗記は、教育的にお勧めかどうかは別として、非常に効果が高そうだ。

脳は「楽しいこと」を記憶しやすい。こうした効果を応用して(?)、下ネタで覚える参考書やドリルがヒットしている。

では、こうした人間の性質を生かして、人の記憶を促す方法を見ていこう。