しばしば明るみに出る各地の警察の不祥事。2015年11月、北海道警でも警察官33人が虚偽の調書を作成していたことが明らかになり、大きく報道されました。しかし報道の裏側を探ってみると、道警が「身内への甘すぎる体質」を隠していることがわかります。不祥事を連発し、それでもなお情報を隠蔽しようとする北海道警に、執拗に食い下がったライターの戦いの記録を公開します――(全4回)。

※以下は小笠原淳『見えない不祥事 北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート)の第一章「その秋、道警は『異常事態』だった」からの抜粋です。

数が合わない!

編集部の玄関を出て右に折れると、階段の手前に郵便受けがある。鍵を挿し込んで半回転させると、2つに折り畳まれた分厚い『北海道新聞』が入っていた。

題字のすぐ横、縦書きの活字に、目が釘付けになった。

道警の33人書類送検
虚偽調書作成疑い

第1面に、堂々たる見出しとカラー写真。前日午後に謝罪会見を開いたという白井弘光監察官室長が、直立不動で頭を下げていた。

交通違反を取り締まる警察官たちが、実際には立ち会っていない実況見分に立ち会ったことにし、虚偽の調書を作ったという話だった。あろうことか、その取り締まりの「手当」を受け取っていた警部補や巡査長もいたという。

さらに。

違反切符を捏造容疑
40回以上 森署巡査長を逮捕
違反者扱いの女性が証言
署幹部「内密にして」

社会面に、事実関係をまとめた記事と被害者コメントで構成した記事の、2本立て。口を半開きにしながら隣のページに目をやると、これまでの不祥事連発を検証するまとめ記事が載っていた。

道警 信頼回復険しく
続く不祥事「異常事態」

口を開けたまま屋内に戻り、再び活字を追う。先の調書捏造とは違う話だ。28歳の巡査長が、交通取り締まりの違反切符を40回以上も捏造したのだという。巡査長は、過去の違反者の中からピックアップした管内町民になりすまし、自ら署名・捺印した違反切符をせっせとつくり続けたというのだ。記事には、逮捕された彼の「交通違反の摘発をしなければ、格好がつかない」という供述が載っていた。やはりのちに取材することになるこの話は、当時の記事を読む限りではいかにも悪質で常習的な犯罪だった。

小笠原 淳『見えない不祥事 北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート)

10月中旬から11月下旬にかけ、道警は4度の発表で計6件の不祥事をあきらかにした。監察官室長コメントは各日付で、つまり4回出された。そのすべてで「再発防止」が誓われていたのはいうまでもない。「道民の皆様」への謝罪は3度あり、「厳正な処分」は2度宣言された。最終的に「記者クラブ」向けの会見を開いたのは、今朝の記事の通り。『道新』によれば不祥事の謝罪会見は、道警では5年ぶりのことだったという。

これまでの不祥事と、ほかの取材案件とが、脳内をぐるぐる回り始める。お湯を沸かす筈だったことはすっかり忘れていた。

監察官室長が、5年ぶりに謝罪。それほどの「異常事態」ということらしい。それはつまり、短期間に複数の不祥事が続いたから異常なのか、それとも各ケースの内容が異常なのか。社会面を読む限りでは、この年の道警の懲戒処分者数は20人に上り、すでに前年の同9人を大きく上回っているという。ということは数の問題なのか。

そこで、ふと第1面の見出しを見直してみる。違反切符捏造事件ではなく、同じ日に報じられた虚偽調書作成事件のほうだ。

「33人書類送検」。確かにそう書いてある。だが、この年の懲戒処分者数は「20人」。数字が合わない。書類送検された警察官たちは懲戒処分を受けなかったということか。それとも、これから処分が決まるということなのか。