「印刷しても見えない」という次世代のコード技術がある。印刷物の黒インキにドットパターンを忍び込ませるもので、バーコードやQRコードのように場所をとらない。黒ペンなどで塗りつぶすこともできないので、セキュリティの面でも有用だという。開発したのは横浜市にある社員5人の中小企業だ。開発の背景を聞いた――。

隠れ網点を忍び込ませる技術

バーコードやQRコードはさまざまな情報を埋め込める便利な技術で、世の中に広く普及した。しかし、情報量に限りがあることと、当然ながらコード情報が印刷されるため、デザインが損なわれるデメリットがあった。たとえ隅っこでも四角のQRコードがあれば、きれいな写真も台無しだ。

岸上郁子・アポロジャパン社長

ところが、アポロジャパンが開発した「スクリーンコード」は、目に見えないので、印刷物に何の影響も与えない。その秘密は印刷物の中に忍者のように秘かに情報を伝える「隠れ網点」を忍び込ませることにある。

ちょっと複雑な話になるが、カラー印刷はC(シアン=青)、M(マゼンダ=赤)、Y(イエロー=黄)、K(キープレート=墨<黒>)の4色の網点を掛け合わせて表現する。

スクリーンコードはこのK版に「隠れ網点」を忍び込ませる技術だ。印刷物に専用の読み取り機で赤外線を照射し、墨インキに含まれるカーボンを読み取って、ドットパターンを認識する。

そうすると、黒い網点が印刷されてしまうのではないかと思うかもしれないが、心配は無用だ。墨網点は印刷面の黒色の上に載せる。黒色はCMYの掛け合わせによって表現できるため印刷面の黒色はこの3色を使い、残ったKをスクリーンコード用に当てるわけだ。

スクリーンコードは、1ユニットが1.8ミリ角のスペースの中に6×6=36個の網点(ドット)を配置して情報を表示する。1ユニットでなんと約280兆通りものパターンが表示できるという。単純計算では、A4用紙全面にスクリーンコードを印刷すると、A41枚で150枚分(A4印刷物換算)のデータ量を埋め込める。これは、QRコードのデータ量の100倍に相当する。社長の岸上郁子は語る。

「印刷物なら何にでも情報を盛り込めるので、言語、文化、年齢、障害など見えない壁を越えて世界を1つにすることができます。だから、『世界を変える、見えないドット』をキャッチフレーズにしています。コストもかからない手軽なIoTとも言えます」

IoTとは「Internet of Things」の略で、ネットに接続して情報のやりとりができるモノを指す。スクリーンコードならネットに誘導することも可能だし、それ自体に相当の情報量を盛り込めるので、海外旅行客が母国語で観光案内を読んだり、目の見えない人が音声で情報を得たりすることも可能だ。