いまやCMに安全地帯はない

企業のCMや自治体のPR動画の炎上が後を絶たない。5月、ユニ・チャームのおむつ「ムーニー」のCMに対して、ワンオペ育児を賛美していると批判が殺到した。7月にはサントリー「頂」のCM、そしてタレントの壇蜜さん起用の宮城県の観光PR動画の性的表現がやり玉に挙がった。

8月には、「牛乳石鹸」のCMが炎上した。息子の誕生日に父親が、仕事で叱られた後輩を飲みに連れていって帰りが遅くなってしまう。帰宅後に妻ともめるものの、お風呂で気持ちを切り替えて謝罪。画面には「さ、洗い流そ。」のコピーが映る。サイトには「お父さんたちを応援するムービー」と説明があり、私自身はメッセージ性のあるCMだと感じた。しかし父親像が不評だったようで、ネット媒体では「不快」「もう買わない」という視聴者の声が紹介されて燃え広がった。

かつてCM炎上はテレビが主戦場だった。しかし、企業や広告制作者が学習をして、テレビCMの炎上は減少傾向にある。現在の主戦場はウェブCMだ。先ほど紹介した事例はすべてウェブCMやウェブPR動画である。ウェブはテレビと違って観たい人が観るメディアであり、自由に表現しやすいと考えられてきた。しかし、いまやウェブも安全地帯ではなくなった。

炎上するテーマにも、ある傾向が見て取れる。海外でも広告の炎上は少なくないが、批判が殺到するのは主に人種問題や民族問題に関して配慮が欠けた広告だ。一方、日本では家庭における男女の役割や、エロスを強調した表現など、広い意味でジェンダーが問題になることが多い。昭和的男性の価値観によって傷つけられてきた女性が自由を手にする時代になったのに、企業や自治体が時計の針を巻き戻す広告を打つのは許せないと憤るわけだ。

燃え広がり方もほぼ決まっている。発端は、ツイッターなどSNSへの個人の書き込みだが、この段階ではそのまま消えていくものも多い。延焼するのは、個人の書き込みがまとめサイトか有名ブロガーに取り上げられてから。まとめサイトやブログエントリーがリツイートされて一気に燃え盛る。