9月25日、安倍晋三首相は解散・総選挙の意向を正式に表明した。なぜいま解散なのか。ノンフィション作家の塩田潮氏は、その背景には祖父・岸信介元首相の「失敗の教訓」があるという。すべては安倍首相の悲願である「改憲」に向けた助走にすぎない。解散決断の裏側を緊急分析する――。
9月25日、安倍晋三首相は臨時国会冒頭での衆議院の解散・総選挙を表明した。(写真=AFP/アフロ)

なぜ「解散・総選挙」の決断をしたのか

安倍晋三首相が2度目の解散・総選挙を断行した。安倍首相も含めて戦後、4年超の在任記録を残した吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎の6首相の中で、解散・総選挙が1回だけだったのは安倍首相一人だったが、「2回組」のメンバー入りを果たした。

安倍首相の「解散カレンダー」は当初、「2018年の通常国会での改憲案発議、9月の自民党総裁3選、秋の改憲案の国民投票との同日選で解散・総選挙」というスケジュールだったはずだ。約1年、前倒しして「改憲案発議前の解散・総選挙」を選択したのは、何よりも「今なら勝てる」と思ったからだろう。

理由は2つ。1つは、7月に急落した内閣支持率が8月3日の内閣改造の後、回復に転じた。もう1つは、民進党の代表交代と新幹事長人事をめぐる失態、離党者の続出などの混迷と、東京都の小池百合子知事が目指す国政政党結党の動きなどであった。

だが、「なぜ今、解散・総選挙」という決断については、それ以外の下記の6つの事情も大きかったようだ。

第1は、やはり国会での「森友・加計疑惑」追及阻止という思惑だろう。安倍首相側がどう言い訳しようとも、追及再開を回避したくて「臨時国会開会・審議なし・総選挙」というストーリーを考え、臨時国会冒頭解散を思いついたのでは、と多くの国民は疑っている。やっと何とか上向きに転じた内閣支持率が再下落すれば、今度は政権の命取りになりかねない。その意味では、権力の維持そのものが目的の解散と批判されてやむを得ない。

第2は、安倍首相の長期政権戦略だ。次期総裁選の前に解散・総選挙を行い、勝利を手にすれば、総裁3選が容易になる。

第3は、朝鮮半島情勢と米中の出方も影響したに違いない。北朝鮮はミサイル発射と核実験に猛進中だが、その時期に、中国では10月18日から共産党大会が開催される。一方、トランプ米大統領は11月4日から日中韓を歴訪する。二つの大きな出来事の前なら、むしろ朝鮮半島情勢も足踏み状態で、大危機発生は当面ないと見て、「今のうちに解散・総選挙」と考えた可能性がある。

第4は、経済状況だ。9月8日に今年の4~6月期のGDP(国内総生産)の第2次速報値が発表されたが、成長率は年率換算で実質2.5%、名目で3.0%となった。企業収益も回復傾向で、有効求人倍率は大幅に上昇しているという。好調経済は選挙で与党有利に働く。

第5は、天皇退位との関係も考慮したのではないか。天皇の交代による改元は2019年1月1日が最有力だが、そうなると、前年の18年後半は準備の真っ最中という時期になる。解散・総選挙のタイミングとしては適当とはいえない。1年前倒しを決めた隠れた理由の一つだったと見ることもできる。

第6は、安倍首相にとってはこの点が最大の理由と見られるが、「長年の悲願の改憲実現」のためには、挑戦前に一度、「解散・総選挙」を行うのが、むしろ近道という考えがあったと思われる。