他人のたばこの煙を吸い込む「受動喫煙」を防ぐため、東京都が飲食店などを原則、屋内禁煙とする条例案を公表した。自民党の反対で先送りされた国の「たばこ規制法案」の先取りだ。社説では朝日新聞(9月12日付)と東京新聞(13日付)がこの都の方針を「歓迎したい」「期待したい」と書いた。しかし、いずれの社説も「喫煙は違法ではない」と喫煙の権利について言及しているため、肝心な主張がぼやけてしまった。なぜ2紙は「公権力」などという言葉を持ち出してくるのか――。

「都独自の取り組みを歓迎したい」

朝日社説はその書き出しで都の条例案の内容を「焦点となる食堂や居酒屋などの飲食店については、全面禁煙(喫煙室の設置は可)としつつ、30平方メートル以下のバーやスナックに限り、すべての従業員の同意などを条件に喫煙を認める」と解説する。

朝日新聞の社説(9月12日付)。見出しは「たばこ規制 東京の機運を全国に」。

続けて「先の国会では、20年東京五輪を視野に厚労省が規制法案の提出を探ったが、自民党の反対で先送りされた。国レベルの対策が進まないなか、今回の都独自の取り組みを歓迎したい」と小池知事の判断に賛成する姿勢を示し、その後に「ただ、その中身は十分とはいえない」と異も唱える。

具体的には「日本も加盟する世界保健機関(WHO)の『たばこ規制枠組み条約』の指針が求めるのは、公共施設での『屋内全面禁煙』だ。喫煙室を設置しても漏れ出る煙で受動喫煙はゼロにはならないし、雇い主に向かって『客にたばこを吸ってほしくない』と、はっきり言えない従業員もいることだろう」と指摘し、「公募中の都民の意見も踏まえ、条例案提出までに都庁内の検討をさらに深めてほしい」と訴える。

「相互監視」という不釣り合いな言葉

朝日の社説はここまでは理解できる。分かりにくいのが、次からのくだりである。

「これとは別に、都民ファーストの会と公明党は『子どもを受動喫煙から守る条例案』を今月始まる都議会に出す予定だ」と前置きし、「条例案では、18歳未満に受動喫煙をさせないよう努めることを『都民の責務』と定める。子どもが乗っている自動車内でたばこを吸ってはならないとし、家庭で子どもと同じ部屋で喫煙しないことを努力義務として課す」と説明した後、「子どもの受動喫煙をなくすという目的をかかげ、都議たちが条例案を提出しようとする試みは評価する」と書きながら、「喫煙自体は違法な行為ではない。私的な領域に公権力はどこまで口を出してよいのか、相互監視の風潮を生まないかなどの疑問や不安もある」と指摘する。

この朝日社説の指摘をよく考えると、受動喫煙をなくすことには賛成だが、たばこを吸うこと自体は法律で禁止されていない以上、なくすことはできないとバランスの悪い2つの論を併せて展開している。

だから読み手は混乱する。しかも「公権力」「相互監視」といったこの場に不釣り合いな言葉まで使う。