営業マンの最終的な極意は「商品を売るのではなく、自分を売ることだ」といわれる。損保会社に16年勤務してからコミック作家に転進したわたせせいぞうさんは「その通りだ」という。どうすれば「自分」を評価してもらえるようになるのか。わたせさんが40代の読者に向けてアドバイスする――。

仕事で結果を出すマナーの身につけ方

40代というと、管理職を任される世代です。その会社独特のものもあると思いますが、みんなそれなりに積み重ねたマナーを持っているものです。

わたせせいぞう●1945年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、同和火災海上保険(現あいおいニッセイ同和損害保険)入社。16年勤務した後に独立。神奈川大学特任教授。代表作に『ハートカクテル』『菜』『北のライオン』ほか。

エレベーター内の立ち位置や、応接室での席次など、基本的なマナーは会社から教わります。ただ、仕事で結果を出すためのマナーは体験で身につくものでしょう。

大学を卒業し、同和火災海上保険(現あいおいニッセイ同和損害保険)に入社しました。役職者になったのは33歳の頃。東京・足立区にある新しい営業所の所長でした。会社の拡張期だったので、当時としては早い昇進でした。損害保険の営業マンというのは、実際に契約を取ってきていただく代理店を統括するのが仕事。代理店の方々に契約を取ってもらうことが営業マンの成績となるわけです。

役職者になって心がけたのは、それまでに仕えてきた上司の「いいところを集めた」上司になることでした。たとえば、部下を褒めまくる上司がいたのです。上司の上司が部署に顔を出すと「○○君が今回の難しい仕事をやってくれました」。電話でも「○○君が頑張りましたから」と常に部下を立てる。これはものすごく部下の励みになると思い、はじめて所長になったときにすぐに真似しました。

名前を覚えるのも大事ですね。前任の所長が上司と対立して異動になり、僕が新所長として赴任したときのこと。最初に大勢の代理店の方々の前で挨拶をするのですが、みなさんは前の所長をとても慕っていて「あの人は可哀想。新しく赴任してきた若造はどんな奴だ?」という空気に満ちていたのです。そんな空気を変えたくて、今度来た人はちょっと違うと思わせたかった。名刺交換のときに数十人もの顔と名前を全部覚えて、懇親会では一人ひとり相手の名前を呼んで話をしました。必死ですよ。僕の場合、成績が下がったら好きな絵をやめなくてはいけませんでしたから。

そのときはすでに二足のわらじで、上司からは数字を落としたら絵を描くのをやめろと脅迫(笑)を受けていました。だからこそ、効率よく仕事をすることを心がけていました。

最初の頃は仕事に追われながらアイデアを考えたり、絵を描いているときに仕事の心配をしたりしていました。でも、これは結果的にどちらにもよくない。平日は絵のことは考えず、休日は仕事のことはまったく考えない。片方を終わらせてからもう片方へと、きっぱり分けて取り組むようにしました。