核兵器に弾道ミサイル、海からの補給を阻む新型対艦ミサイル……。朝鮮半島での武力衝突も見越し、北朝鮮は自分が有利に戦える武器と土俵を着実に整えつつある。イラクやシリアがそうだったように「空爆」だけでは戦争は終わらない。日米韓は、捨て身で向かってくる北朝鮮に対抗できるのか――。
ブースト型原爆とみられる核弾頭の模型を前に、笑顔を浮かべる金正恩(右から3人目)(写真=EPA=時事)

国連の追加制裁も金正恩には無意味

9月2日の北朝鮮の核実験を受けて、国連安全保障理事会では緊急会合が招集された。アメリカは安保理の新たな追加制裁決議で、金正恩が折れるのを待っているようだ。しかし、金正恩は体制の安全が保証されない限り、姿勢を変えることはないだろう。

北朝鮮の動きを分析すると、そこからは暴走とは程遠い、むしろ緻密に計算された脅しのステップを見てとることができる。脅しの技術、すなわち核兵器とその運搬手段の完成を目指し、北朝鮮は一歩一歩、着実に賭け金を積み重ねている。確かに綱渡りの危険なギャンブルではあるが、北朝鮮という国家、いや金正恩の命運がかかったものだけに、全体の動きは実に慎重に注意深く進められている。

世界最強のアメリカ軍といえども、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を100%迎撃可能な手段は持っていない。仮に、北朝鮮が現在保有する火星12号や火星14号よりもさらに射程が長く、かつ多弾頭化されたICBMが完成に至れば、アメリカは危機の瀬戸際に立つことになる。もっとも、火星12号や14号のロケットエンジンは、元はウクライナから流出した技術といえわれ、北朝鮮の技術力ではこれ以上の拡大発展は容易ではないだろう。となれば、射程6000kmを超える弾道ミサイルの戦力化には困難が伴うだろうから、北朝鮮は手持ちのカードの強化に力を入れていくはずだ。

ミサイルはなぜ北海道上空を横切ったか

8月29日、北朝鮮は火星12号と見られる中距離弾道ミサイルを発射。北海道を横切るコースを飛翔して襟裳岬の東方約1000kmの海上へと落下させた。この発射は飛翔距離の短さから失敗であったと考えられるが、北朝鮮が外交カードの強化を目指す考え方がよく見てとれる。

北朝鮮は火星12号を「グアム攻撃用戦略兵器」と位置づけている。北朝鮮から長距離ロケットを発射する場合、距離を稼ぐことを優先するなら、地球の自転を利用して真東に打ち出すのが有利だ。だが日本の本州を横切るコースで発射すると、制御不能となった場合にグアムやハワイの方向にそれる可能性があり、そうなるとアメリカに間違ったメッセージを送ってしまうリスクがある。