「家族主義」をかかげる会社は、社員にとって本当に居心地がいいのか。栃木県宇都宮市に「社員第一主義」を掲げる中小企業がある。社員50人のうち30人は、元ひきこもりや元薬物中毒などの“わけあり社員”。それでも年々業績を拡大させているという。同業者からの視察も相次ぐという不思議な経営手法を取材した――。

店内にタイヤがないタイヤ店

栃木県宇都宮市の環状線沿い、中古タイヤ販売と買取修理の大型店舗を構えるアップライジング。ネット通販と直販で年々業績を伸ばし、2006年の創立時1億2000万円だった売り上げが、前期は4億5800万円にまで急成長している。

齋藤幸一・アップライジング社長

この会社が、最近大きな注目を集めている。従業員50人という小規模なのに、大企業やライバル企業から、会社見学の申し込みが絶えないというのだ。

店舗を訪ねてみると、入り口の看板には「新品はご近所で、中古は当店で」と書かれていて、さっそく面食らう。店内にはタイヤは見当たらず、目に入るのは「猫ルーム」だ。「作業中や待ち時間に無料でご利用いただけます」と注意書きがある。その隣には、かわいいイラストが描かれたキッズスペース。おむつ台を備えた授乳室や多目的トイレもある。タイヤを並べた売り場は、そのさらに奥にあった。

取材に対応してくれたのは、社長の齋藤幸一さんだ。

「目先の利益は度外視です。目標は『人にやさしい店づくり』です。たとえば店舗内にある会議室の2部屋すべて、地域住民やサークルなどに無料で貸し出しているので、昼間は主婦や子連れママが押し寄せるんですよ」

アップライジングがこの場所に店舗を構えたのは2年前。以前の店舗では来店客のうち95%が男性だったが、新店舗になって来店客の男女比は半々になったという。

同社は2017年2月、「ブラック企業」とは対極の、社員の働きがいと幸せを追求する企業を表彰する第3回「ホワイト企業大賞」の特別賞「人間力経営賞」を受賞している。今回、私が取材に訪ねたのも、同賞企画委員長の天外伺朗氏(元ソニー上席常務)から「この会社はなかなかすごいですよ」と聞かされたからだ。それほど、同社の「社員第一主義」は徹底しているというのだ。