英語教師を対象にした「英語教育・達人セミナー」という勉強会がある。20年以上、全国各地で開催されており、モットーは「明日の授業に即役立つ」。なぜ教師たちは貴重な休日に「学び直し」を行っているのか。英会話教室イーオン・三宅義和社長が、「達セミ」を主宰する現役高校教師の谷口幸夫さんに聞いた――。

土日は部活でつぶれ、定時に帰れる先生はいない

谷口幸夫・東京都立小平高等学校教諭/英語教育・達人セミナー代表

【三宅義和・イーオン社長】今回は東京都立小平高等学校の進路指導部・英語科教諭の谷口幸夫先生をお迎えしています。谷口先生は長年、現役英語教員の自主研究会「英語教育・達人セミナー」の代表としても活躍してこられました。そんな八面六臂のご活躍をしておられますが、そもそも英語との出合いはいつでしたでしょう。

【谷口幸夫・東京都立小平高等学校教諭/英語教育・達人セミナー代表】私自身は栃木県の田舎の出身ですので、当然のごとく中学校からです。もちろん、塾も予備校に近くにはありませんでした。ただ、最初に習った先生が、大学出たてのバリバリで、当時はやっていたオーラルアプローチという口頭練習や言葉の使われる場面を重視する手法を取り入れた授業をしてくれました。

それと忘れられない思い出が、青山学院大学の女子大生が教育実習に来て、一番前の席に座っていた私が教科書を読んだとき、「There is」と「There are」の発音をほめてくれたのです。オーラルアプローチの成果だったかもしれませんが、「発音が上手ね」とほめられて一気に舞い上がってしまいました(笑)。

【三宅】中学生の頃に、ほめられるのは、ものすごくモチベーションがアップします。いろんな英語の達人と話してもそういう経験をお持ちの方は多いです。逆にけなされて、英語が嫌いになってしまったという話もよく聞きます。学習者の心理は微妙に揺れ動いていますから、先生のひと言は大きい。それが谷口先生が教職の道に進まれた理由かもしれませんね。

最近の中高教育の先生はとても忙しいと聞いています。どのような状況でしょうか。

【谷口】それはもう、ぜひ、太文字で書いて強調してください(笑)。この4月に現在の高校に異動し、自宅と職場が近くなったものの、それでも朝は7時半に家を出て、8時に職員室に着き、8時半からの授業に備えます。プリントの印刷などもその時間にするわけです。

授業は「オーラルコミュニケーション」と「英語表現」の2科目を受け持っています。前者が読む、聞く、話す、書くという4技能総合型、後者が文法と作文を中心としたカリキュラムです。それで週に16時間、1日に2~4コマの授業を受け持つということになります。

しかも、放課後になるとクラブ活動が控えていたり、会議が入ったりで、17時の定刻に帰宅できる教諭は多くありません。私は前任校で、テニス部を担当していましたが、日曜日に公式戦があると、土曜日は自動的に練習日になり、土日もつぶれます。

【三宅】最近、働き方については、いろんなところで議論されているので、徐々に改善されていくかもしれません。そうでないと、優秀な人材が教員を志さなくなってしまいます。

高等学校の英語の授業ですが、私の時代は当てられて、英語を読んで、和訳する。そして、「はい次」と、今度は別の誰かが読んで訳す。そういう授業が大半でした。最近の授業は大きく変わってきているのでしょうか。

【谷口】変わっていると思います。小平高校の場合、オーラルコミュニケーションなら、その学年を担当している先生が4人いれば、4人の先生がチームになり、3種類のシートを作成して、そのプリントを基に授業を進めます。3つのシートというのは「単語シート」「サイトラシート」「QAシート」です。

このうち単語のシートは私が10年ぐらい前に思いついたのですが、普通は教科書の本文から意味のわからない新出単語を書き出し、その意味を調べて書きます。やってこない生徒が多かったので、それを逆にして、日本語の意味を与え、それに該当する英単語やフレーズを本文から書き出すという形に変えました。その方が、何度も教科書を読むので効果的です。さらに、単語ではなく、意味のまとまりを意識できるようになります。

サイトラというのは、サイト・トランスレーションの略で、左側に英語、右側に日本語訳がついたものです。「見たところを、英語から日本語に訳す(または、その逆)」といった意味で、同時通訳のトレーニング法の1つとしても使われています。