NHKで日曜朝に放送されている『小さな旅』。退屈に感じられるくらいゆったりとした紀行番組で、人気番組『ドキュメント72時間』が「偶然」をうまく演出するのとは対照的だ。だがコラムニストの更科修一郎氏は「この退屈さは制作者の矜持だろう」と読み解く。そんな長寿番組のもつ不思議な魅力とは――。

土日の早朝枠は、辺境番組の寄り合い所帯だ。

古き良き時代のテレビ局の良心的番組が残っているが、裏を返すと、固定客だけの保守的な長寿番組が寄り集まっている。

土曜早朝は『渡辺篤史の建もの探訪』(1989年~)、『おかずのクッキング』(1974年~/共にテレビ朝日)、『皇室アルバム』(1959年~/毎日放送)。日曜早朝は『テレビ寺子屋』(1977年~/テレビ静岡)、『時事放談』(1957年~/TBS)、『遠くへ行きたい』(1970年~/読売テレビ)……筆者が子どもの頃から新聞のテレビ欄に載っていた番組だが、わざわざ早朝に起きて観ることは稀だ。

NHK総合の『小さな旅』も、そういう長寿番組のひとつだ。「街歩き」と「出会い」の紀行ドキュメンタリー番組として、1983年から34年間続いている。初期の『小さな旅』は『関東甲信越小さな旅』というタイトルで、関東ローカルではゴールデンタイムの木曜19時半に放送されていた。当時はそれなりに人気番組だったのだろう。

『関東甲信越小さな旅』が始まった80年代初頭、紀行ドキュメンタリー番組は他局にもたくさんあった。民放では『兼高かおる世界の旅』(1959~90年/TBS)、『野生の王国』(1963~90年/毎日放送)、『すばらしい世界旅行』(1966~90年/日本テレビ)などの海外紀行番組が長寿番組だった。だが『なるほど!ザ・ワールド』(1981~96年/フジテレビ)、『世界まるごとHOWマッチ』(1983~90年/毎日放送)以降、紀行ドキュメンタリーはバラエティ番組の一要素となり、ジャンル単体での定期放送枠は消滅していく。

国内紀行番組も、芸能人ゲストを旅人に見立てた『遠くへ行きたい』の方向性をよりバラエティ寄りにした、『いい旅・夢気分』(1986~2013年/テレビ東京)のような旅行番組が主流になっていく。それでも、海外紀行番組よりは低予算なので、民間放送初期に教育専門局や準教育局だった局では、長く残った番組もあった。例えば、教養系紀行ドキュメンタリーの先駆的存在だった『真珠の小箱』(毎日放送)は、1959年から2004年まで、45年間も放送されていた。

『新日本紀行』の後釜だったはずの『小さな旅』

NHKでは1963年から1982年まで、18年間続いた『新日本紀行』(NHK総合)が知られているが、83年に始まった『関東甲信越小さな旅』は、その後継的な意味合いもあったのか、1991年から全国番組となり「関東甲信越」の冠が取れた。だが、2000年に木曜夜から日曜朝へ移動してからは、ほとんど忘れられた番組になった。

NHKアーカイブス『新日本紀行』より

それでも、大野雄二作曲のテーマ曲「光と風の四季」を聴けば、その存在を思い出す人も多いはずだ。国内紀行番組のテーマ曲としては『新日本紀行』の冨田勲作曲「祭りの笛」と双璧だが、荘重な「祭りの笛」と静謐な「光と風の四季」は好対照であった。

同時にそれは、番組の方向性の違いでもあった。アナウンサーが日本各地の原風景を訪ね歩くという形式は同じだが、日本各地の伝統や風習を記録する風土記の色合いが強かった『新日本紀行』に対し、『小さな旅』は人々の生活風景を映すだけで、当時としては「軽い」お茶の間向けの紀行番組だった。

なお、NHKを代表する紀行ドキュメンタリー『NHK特集 シルクロード 絲綢之路』は1980年に放送開始している。『新日本紀行』の本筋だった風土記路線は海外ロケの『シルクロード』へ発展し、生活風景路線は『小さな旅』へ枝分かれした。