1年前、経営危機に陥ったシャープ支援案件では鴻海精密工業に競り負けた。しかし目下、東芝が進める半導体メモリー事業売却など買収問題が浮上するたびに取り沙汰されるのが官民ファンドの産業革新機構。産業競争力強化法に基づき、15年間限定で2009年7月から運営開始。格安航空ピーチ・アビエーションやフォークリフト会社ユニキャリア、半導体大手ルネサスエレクトロニクスなどの再建を手掛けた。支援を決めた案件は114件、投資総金額は9846億円にのぼる。

産業革新機構社長 勝又幹英氏(AFLO=写真)

投資能力は約2兆円だが、政府の出資が9割以上で、技術の国外流出を懸念する国の思惑で受けた案件も少なくない。だが勝又幹英社長は「救済を目的とする再生のためではなく、社会的ニーズへの対応、成長性、革新性が認められる案件が投資の基準」と機構の社会的意義を力説する。

機構入りして丸2年だが、サラリーマン人生の出発は日本興業銀行(現みずほ銀行)。ニューヨーク支店などの海外駐在を含め、買収ファイナンスや投資ファンドなどの専門部署でキャリアを積む。富士、第一勧銀との合併前にメリルリンチ日本証券に転職。興銀時代の同僚と再生ファンド会社を立ち上げたほか、IT企業向けのベンチャーキャピタルの社長を歴任するなど投資実務のエキスパート。東芝メモリーへの入札が叫ばれるなか、「大型案件ばかり注目されるが、投資実績の8割はベンチャー向けであり、引き続き次世代の国富を担う産業の育成・創設に力を入れる」と使命感に燃える。

産業革新機構社長 勝又幹英(かつまた・みきひで)
1960年生まれ。83年東京大学教養学部卒業後、日本興業銀行入行。モバイル・インターネットキャピタル社長などを経て、2015年産業革新機構社長就任。
(写真=AFLO)
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