スクープやスキャンダルの内幕モノ、ではない。組織/統率、決断/覚悟、戦略/本質……等々、章立てはビジネス書そのもののつくりである。

新谷 学(しんたに・まなぶ)
「週刊文春」編集長。1964年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業、89年文藝春秋入社。「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より現職。

「自分が書く仕事術の本に商品価値があるとは、まったく思わなかった」と著者が言う本書への反響は、世間を揺るがす“文春砲”の指揮官の想像をも超えてしまったようだ。

「マスコミ以外にもメーカー、銀行、生損保など幅広い業界の方々から熱い反応をいただいて凄く嬉しいです。書いてよかったなあ、とダイヤモンド社さんには感謝しています」

朗らかでよく響く声。物言いも棘がなく率直だ。権力とも対峙する週刊誌のコワモテイメージとは程遠いが、本書の上梓後、著者に最初にかかってきた電話は、安倍政権の中枢からだったという。

「『同じだなあ、仕事の仕方は。組織を動かすうえで俺が考えていることが、全部書いてある』って。同様の評価は外務省、警察庁、防衛省の幹部の方からもいただきました」

昨年初頭の例を見ないスクープ連打以来、週刊文春の“ブランド力”は向上、今も勢いは衰えない。その当の編集部は現在、新入社員も含めて総勢59人。デスク1人に記者7人程度がつく5班体制だ。

「デスクには、自分の下にいる記者をリアルタイムで事細かく把握しておくよう指示しています。仕事がうまくいってるか否か、将来目指す方向、体調やモチベーション、記者同士の相性等々。『こいつは調子よくないな』という予断で見ていると間違えますから、密にコミュニケーションを取って、サシの人間関係を持ってほしいと伝えています」

2012年に編集長に就任。全編集部員に“最大の武器はスクープ力”と伝えた。この方針は今もまったくブレない。

「常に踵が浮いた状態でいて、チャンスと見れば最初の一歩は遅れずに出る、という意識は個々の記者が持っています」

リスクは取りますよ、と明言する著者は、大きなネタを上げてきた記者には必ずチャンスを与える。そして、失敗は絶対に責めない。

「雑誌の誌面は上澄み。日の目を見なかったボツの現場は山ほどありますから。こうした私の仕事の仕方を見れば、スクープ狙いが口だけではないことが、現場の隅々まで伝わると思うんですよね」

こうした“言うは易く、行うは難い”ことを指揮官自ら愚直にやり続けることが、組織を強くする必須条件だ。

(撮影=的野弘路)
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