政府は7月4日、金融庁の幹部人事を発表した。森信親長官と次官級の金融国際審議官のほか、総務企画、検査、監督の3局長はいずれも留任する。人事の情報は、発表前から報じられていたが、地方銀行の幹部は落胆をかくさない。さらには「地方創生の責任をこれ以上押し付けるな」と怒る。異例の3年目に突入した森長官の狙いとは――。

「経営に行き詰まる地銀が出てくるかもしれない」

財務省、金融庁、日銀による金融市場に関する情報交換会合に向かう森信親金融庁長官=2016年11月9日、東京・霞が関の財務省(写真=時事通信フォト)

7月4日、地方銀行の多くからは、失望や落胆の声とともに、苦悩のうめきも漏れたに違いない。

政府は7月4日、金融庁の森信親長官と総務企画、検査、監督の3局長が留任する幹部人事を発表した。ある関東地区地銀の役員は、「事前に雑誌辞令が出ていたので、森長官の留任は予想していたが、実際に留任となると気が重い。これからの1年、経営に行き詰まる地銀が出てくるかもしれない」と肩を落とした。

森長官の留任に、地銀業界が落胆するのには訳がある。日本銀行が16年2月にマイナス金利政策を導入してから、初めての通期決算となった17年3月期決算。金融庁のまとめによると、本業の収益から国債等債券損益などを差し引いた「実質業務純益」は、都市銀行(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行)で前期比13.2%の減少となった。第二地方銀行41行も合計値が同16.0%減と都市銀行を上回る減益だったが、もっとも減益となったのは地方銀行だった。地方銀行64行の合計値は同19.8%減と約2割も収益が減少した。

減益の原因はマイナス金利政策

減益の原因は、日銀のマイナス金利政策にあるのは間違いない。この政策により、銀行の本来の収益の源泉となる預貸金利ザヤ(貸出金利-預金金利)が一段と縮小したためだ。従来、預貸金利ザヤが縮小による利益の減少をカバーするには、小売業の薄利多売のように貸出量の拡大することで利益増加を図ってきた。しかし、少子高齢化の進展による人口減少、地方の過疎化という経営環境の中では、地銀は貸し出しのボリュームアップによって、利ザヤ縮小の影響による収益の減少をカバーすることはできなかった。

ただ、問題はそれほど単純ではない。地銀の経営環境が逆風状態にあり、資金需要(特に新規需要)が乏しいのは、当事者の地銀は十分にわかっている。そこで、地銀ではいくつかの対策を進めた。その中心となったのが、有価証券運用だ。しかし、これに対して森長官は、「地銀以下の業態による有価証券運用には、運用体制面や運用ノウハウなどで問題のあるところも多い」として、地銀以下の有価証券運用の検査を厳しくした。