60歳からの定年後の自由時間は8万時間あるという。自分の定年後の人生を活かすかどうかは自分次第。まさに「人生は後半戦が勝負」なのである。『定年後』著者が定年後の現実を明らかにする。

「定年後は再スタート」という意味

今回、中央公論新社から『定年後――50歳からの生き方、終わり方』(中公新書)を刊行した。私自身は2年前に還暦を迎えて、以前から関心のあった「定年後」について徹底して考えてみたいと思った。そのため65歳までの雇用延長を選択せずに、どこの組織にも属さない無所属の日々の中で執筆に取り組んだ。本書を書くに際して、数多くの定年退職者、現役の会社員、地域で活動している皆さんから、ご意見・感想をいただき自らの体験を語っていただいた。また私の会社員当時の先輩、同僚および学生時代の友人にも大いに助けられた。

この中で感じたのは、定年後は再スタートだということだ。在職中に高い役職や多額の収入を得ていたからといって、必ずしも定年後が輝くとは限らない。お金や健康、時間のゆとりだけでは問題は解決せず、社会とのつながりや家族との良好な関係、地域での居場所も大切だからだ。

一方で、個々人は今まで経てきたキャリアや過去の経験を急に転換することはできない。定年後は再スタートになるといっても個人は簡単には変われない。この矛盾が定年後をイキイキ過ごすのを難しくしているとともに、自分を見つめ直すことができるという意味では各人の知恵や工夫の発揮のしどころでもある。そこに妙味を感じる。

定年後は、60歳になっていきなり始まるのではなく、それまでの働き方、生き方が密接に関係している。多くの定年退職者の話を聞いていると、40代後半や50代から定年後はすでに始まっていることが分かる。しかし50歳前後の会社員で定年後を明確に意識している人は極めて少ない。