まず危険球スレスレのボールが飛んでくる

戦力で圧倒する米国が北朝鮮に先制攻撃をすれば、短期間のうちに決着がつくとの見立てが、日本では盛んに議論されている。だが、実際には、戦争一歩手前の状態が長引く可能性も高く、日本にとっては悪夢のようなシナリオになりうる。今回、現在の日本の言論空間で取り沙汰されているような机上の空論を脱し、トランプ政権が実際に選択しうる戦争の実施案をみていく。

北朝鮮にゆっくり近づいている米原子力空母カール・ビンソン。(時事通信フォト=写真)

トランプ政権が先制攻撃を決意するとき、どのように実施するのか。ここで参考とすべきは、トランプ政権誕生以前につくられた米国の作戦計画だ。作戦は、「空爆」「兵糧攻め」「占領」の3つに大きく分けることができる。

米国が先制攻撃する場合に、参考とする第1は「作戦計画5026」であろう。この計画は、1994年の米朝危機の際、クリントン政権が策定したものが原案となっている。核施設・大量破壊兵器・主要軍事拠点等の700以上の目標を一斉に数日間で空爆するというものだ。トランプ政権は、おそらくこの計画をブラッシュアップした案を検討している。実行する際は、グアムへの航空戦力の増派、在韓米軍の航空・地上部隊の強化、空母打撃群およびトマホーク装備艦艇のさらなる展開が実行されることが予測される。

第2の計画は、少し風変わりなものだ。2003年にブッシュ政権が策定した「作戦計画5030」では、北朝鮮に対し、繰り返し挑発的な偵察飛行や軍事演習を仕掛けることで、翻弄し、彼らの兵員・燃料・食料・物資・装備を損耗させ、これに情報戦なども組み合わせることで北朝鮮の政変なり崩壊なりを誘発させるのだ。こちらは実施に際しては比較的リスクが少ないので、サイバー攻撃と組み合わせて実行していく可能性が高いといえる。この計画は、米国軍の朝鮮半島への段階的な配備とその運用によって、対北圧力として、すでに実施している可能性もある。

そして、これらの作戦等に対し、北朝鮮が報復してきた場合に発動されるのが、「作戦計画5027」である。これは朝鮮戦争以来、幾度も改訂され、昨年も更新されている計画である。一言でいえば、北朝鮮の侵略を打破し、圧倒的な軍事力を背景に、一気に地上戦で占領するというものだ。

問題は、これらの作戦計画を実施するには、在韓米軍および在日米軍の戦力を増強する必要があることだ。北朝鮮周辺での米軍の戦力が一定以上を超えた際に、北朝鮮は米軍による攻撃を断念させるためにあらゆる方策を実施してくる。その方策とは、「戦争にならない程度の攻撃をすること」「米国の戦意を低下させること」「米国の同盟国(日・韓)を離反させること」の3つを目的とする。現在の危機レベルはまだ低いが、米朝の軍事的緊張がひどく高まれば、デッドボールすれすれの牽制球が北朝鮮から日本へ向けて飛んでくるということだ。

まず、第1にサイバー攻撃だ。サイバー攻撃は手軽に実施できるうえに、「自分たちが犯人ではない」とシラを切れるという利点がある。例えば、日韓の金融システムや送電システムがハッキングされ、何週間も銀行のATMが使用不可能になったり、大規模停電が頻発したりするかもしれない。

これは絵空事ではない、実際、13年に韓国の金融機関等が北朝鮮と思しき、サイバー攻撃を受け860億円以上もの経済的損失を出したという。また、米国防総省も繰り返し、北朝鮮のサイバー戦能力を高く評価する報告を行っており、事実、米本土の電力網や米太平洋軍司令部を沈黙させる能力を有すると指摘している。