今回のPSAの積極戦略は周回遅れの愚策。旧来の自動車メーカーは凍り付くような氷河期がすぐそこまでやってきている。その3つの要因とは。

日産ゴーン氏の後継者だったPSAのCEO

フランスのプジョー・シトロエン(PSA)グループは米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のオペル(独)などの欧州事業を買収すると発表した。この買収によってPSAグループの世界販売台数は430万台規模になり、欧州市場における販売シェアはドイツのフォルクス・ワーゲン(VW)に次いで第2位になる。一方、オペルを手放すGMは欧州市場から事実上撤退する。

欧州ナンバーワンの自動車メーカーといえば、トヨタと世界一の座を争うVWで揺るぎない。VWが発表した2016年のグループ世界販売台数は約1031万台(前年比3.8%増)。これは過去最高の数字であり、グループの世界販売台数が1017万台(前年比0.2%増)のトヨタを抜いて、年間でVWが初の世界首位に立った。15年に発覚した排ガス不正問題のダメージは簡単には癒えない。実際、日本や不正問題の着火点であるアメリカ市場では販売台数を大きく減らしている。しかし足下の欧州市場で思いのほか、販売は堅調だし、何よりラテンアメリカと中国市場では販売台数を伸ばしている。スペイン語圏にいい自動車メーカーがないということでVWは中南米でシェアを広げてきた経緯があるし、一方の中国はVWグループの売り上げの4割近くを占める主力市場だ。今やVWは中国で持っているといっても過言ではない。VWのもう一つの強みは、ポルシェやアウディ、ランボルギーニ、ベントレーといったハイエンドのセグメントを抱えていることだ。これら高級車の販売台数は大したことはないが、単価が高いから利益には大いに貢献している。要は大衆車のVWで台数を稼ぎ、アウディなどのハイエンドで利益を稼いでいるわけだ。

欧州の自動車メーカーで、経済的影響力(売り上げ規模)でVWに次ぐのがドイツのダイムラー。もともとは商用車を造っていたダイムラーと乗用車メーカーのベンツが合併して「ダイムラー・ベンツ」となり、高級車メルセデス・ベンツや戦車、航空機、船舶用エンジンなどを手がけてきた。1998年に米クライスラーと合併して「ダイムラー・クライスラー」が誕生したが、07年にクライスラーの再建に失敗して合弁を解消、「ダイムラー」に改名した。売り上げ規模でVW、ダイムラーに続くのがBMW(独)で、4番手がフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)。イタリアのフィアットと米クライスラーが合併して生まれたメーカーだ。そして5番手、6番手がフランスのPSA、ルノー。両社とも業績は長らく低迷していて、政府から公的資金の注入を受けている。PSAもルノーも政府が主要株主(ルノーは筆頭株主)だから、国の雇用政策上、工場閉鎖や人員削減などのリストラを思うようにできない。そうした事情も再生を難しくしている。さらにルノーはディーゼル車とガソリン車の排ガス試験で過去25年以上にわたって不正を行ってきたとしてフランスの検察当局による捜査が続いている。カルロス・ゴーンCEOら経営幹部がこれを認識していたとの疑惑も持たれていて、前途は厳しい。