「脳脊髄液減少症」、この病名をご存じだろうか――。“あっという間に治る「むち打ち症」がある”と、大きな話題になったことのある病気である。基本的には、むち打ち症と診断されていた人の中に本当は脳脊髄液減少症と診断されるべき患者がいた、というのが正解である。

むち打ち症と診断された人の10%程度、「起立性頭痛」を訴えて受診する患者の10%程度も脳脊髄液減少症と考えられている。このほか、「更年期障害」「線維筋痛症」と診断される患者の中にも、この病気の人はいると思われる。

正しく診断されていないケースもある脳脊髄液減少症は、脳の中の脳脊髄液が減少することで浮いていた脳が沈み、血管や神経が引っ張られて、「頭痛」「頸部痛」「耳鳴り」「視機能障害」「倦怠・軽い疲労感」などの症状が起きる。

前述の起立性頭痛は、横になっていると問題はないが、座位や起立位では3時間以内に頭痛が出るものである。

では、なぜこのような症状が出るのか――。脳という臓器は脊髄液の中に浮いている。無色透明な脳脊髄液は脳室内の脈みゃくらくそう絡叢で1日500ミリリットルつくられ、脊髄を循環して、脳の頂上にあるくも膜顆粒などから吸収され静脈へ。脳内には常に80ミリリットル程度あって、脳を守り、代謝にもかかわっていると考えられている。

その脳脊髄液の減少を引き起こす原因として、「髄液の産生低下」「髄液の吸収過多」「髄液の漏れ」が指摘されている。が、実際にはくも膜に裂け目ができ漏れるケースがほとんどで、それを引き起こすのが「交通外傷」「頭を打った」「スポーツ外傷」「転倒して尻もちをついた」「出産」など。もちろん、原因がまったくわからないケースもある。

受診する診療科は脳神経外科、神経内科。「問診」「MRI(磁気共鳴断層撮影)検査」「RI(ラジオアイソトープ)検査」などが行われ、診断がつくと治療となる。

治療は「保存的治療」と「ブラッドパッチ(硬膜外自家血注入)治療」のふたつ。

保存的治療は、1日1000~2000ミリリットルの水分摂取を行いながら、ベッドで安静を保つ。この方法で90%もの人が自然治癒するという。

保存的治療で効果のなかった人にブラッドパッチ治療が行われる。X線透視下で脳脊髄液の漏れている近くに針を刺し、患者の腕から取った血液に造影剤を混ぜ、刺しておいた針から注入する。血液は硬膜外腔に広がり、血液の漏れているところで凝固し、漏れを止める。治療後、症状が数時間で改善するケースもある。

【生活習慣のワンポイント】

脳脊髄液減少症は原因不明の特発性のものもあるだけに、生活習慣での予防は難しいが、適度な運動を行い、体を柔軟にしておくことで、一定の予防効果を生むと思われる。

社会保険中央総合病院健康管理センターの調べでは、人間ドックを受診した人たちに運動習慣を聞くと、「週に1回以上運動をする」と答えた人は、男女ともに19.1%と、きわめて低い数字だった。

柔軟性のある体を維持するために、1回20分のウオーキングを1日2~3回は行うべきである。もちろん、ウオーキングを行う前には軽い体操と十分なストレッチを10分程度は行ってからスタートする。終了するときも筋肉を十分にもみほぐす。

これとは別に、実際に消えない、改善しない辛い「起立性頭痛」「むち打ち症」などで悩んでいる人は、脳脊髄液減少症に詳しい脳神経外科、神経内科を探して受診しよう。脳脊髄液減少症と診断がつくかもしれない。診断がつくと、辛い症状から解放される可能性がきわめて高くなる。