好きな仕事をして給与をもらっている。あなたは大変幸運です。特に新しくやりたい仕事がなければ定時に帰って、家で好きなことが山ほどできます。

──上司と飲みに行くと、「お前のやりたいことは何だ」と聞かれるのですが、答えに窮してしまうんです。

そういうときは「何だと思います?」と逆質問して、ニヤッと笑ってスルーしてはどうですか。

──そうすると「ビジョンのないやつ」などと思われそうで……。

人生には波があります。考えてもみてください。パートナーがいなかった時期もあるでしょう。いなくなったら「いるのが当たり前」と、血眼になって探しますか? いない時期はデート代が浮くから、自分のためにお金を使える。そうこうしているうちにまた素敵な人と巡り合うかもしれない。仕事も一緒です。いつもやりたいことがあるのが理想と考えるのは、いつもパートナーがいるのが理想と考えているようなものです。

──周りの目を気にしすぎているのかもしれませんね。

そうだと思います。お天気と一緒で、晴れの日もあれば雨の日もある。そのほうが自然ですよね。趣味の世界に没頭していたら、そのうちにまた仕事でもやりたいことが見つかるかもしれないと、鷹揚に構えていればいいと思います。

──出口さんは、趣味でやっていたことが仕事に役立ったことはありますか?

たくさんありますよ。たとえばワルシャワに遊びに行ったときのこと。仕事で行ったわけではないのに、突然スピーチを頼まれました。何か話さなければならない。そのとき、昔読んだ本を思い出して「美しい人魚がつくった街に来ることができて嬉しいです」と言ったら大反響。「日本人で、ワルシャワを人魚がつくった街だとスピーチしたのはあなたくらいだ」と現地の人が感激して、街中の人魚の像まで連れて行ってくれました。

──明確な目標を設定して、常にステップアップしていくのが理想だと思うほうがおかしい?

高度成長期のように成長曲線が比較的想定しやすい社会では目標を立てやすい。でも今は先が読めない世の中。去年の今ごろ、トランプさんがアメリカの大統領になると思っていましたか?

──思っていませんでした。

何が起こるかわからない世の中です。こういったときに精緻な目標を立てると、どこかがズレたらすべてが狂ってくる。どのような状況下でも生き抜ける適応力をつけるために、自分の頭で考える力を養っておきましょう。

Answer:夢とパートナーは、いつもあるとは限りません

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長 

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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