「早くも次の進路を考えている」ということは、あなたと会社との相性がよくないと判断したのですね。

──でも、世間ではよく、「石の上にも3年」と言いますよね。

このことわざが当てはまるのは「よくわからない」場合です。

たとえばあるパートナーと結婚したいと思ったとします。しかし、パートナーにはいいところもあるし、悪いところもある。結婚するにはまだ心の整理ができない。それなら、少し一緒に住んでみよう、というのが「石の上にも3年」の考え方です。でも一緒に住んでみたらDVで、毎日暴力を振るわれたら、早く逃げ出したほうが賢明ですよね。

──転職を繰り返すのは、自分のほうに問題があるのではと思ってしまいます。

この前おもしろい話を聞きました。広島のある眼鏡チェーンは「この職場は私に合いません」と言う部下がいたら、「それなら、どこがいいか言ってごらん」と、無条件で他の店舗や部署などの希望を聞いて異動させるそうです。それを3回くらい繰り返すうちに、誰でも「あ、悪いのは自分かもしれない」と考えはじめる。

──出口さんは転職を繰り返す人をどう思いますか?

問題ないと思います。以前、27歳で、当社が4社目という人がいました。在職中はきちんと会社に貢献してくれて、その後小さい会社へ行きました。

彼の場合、1社目は「これからはインドの時代だ!」とインドで仕事をしていたのですが、「やっぱり毎日カレーはしんどい」と日本に戻ってきて日本の会社で働き出します。ところが、海外での仕事経験があるので、「日本はドメスティックだから」という理由で、次は香港の投資会社へ行く。そこから、「自分がやりたいこととは少し違う」と当社へ転職してきたのですが、当社の事業規模が大きくなるにつれて、もっと小さいところでチャレンジしたいと思うようになったそうです。

──辞める理由が明確であれば、問題がないということですか。

そうです。一方で、「何となく合わない」と、転職を繰り返すケースの場合は、その人自身にも問題があるのかもしれない。

もし辞めたいという理由が明確ではなくて「もう少し粘るべきかも」と思っているなら、3カ月や半年など、期間を区切って、精一杯頑張ってみればいいと思います。そのうえで、やはり合わないと思うなら転職すればいいのではないでしょうか。

──そうですね。親から就職したときに「3年は頑張れ」と言われていたので、どうしようかと。

ご両親の時代とは社会状況が違います。例えば以前は「結婚したら一生、添い遂げるものだ」と言われていたでしょう。それと同じです。

Answer:「石の上にも3年」とは限りません。頑張る期限を定めましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長 

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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