緊急事態条項の新設と義務教育規定の改正か

国会開幕の1月20日に安倍晋三首相が施政方針演説で憲法について「具体的な議論を深めよう」と訴えてから、1カ月以上が過ぎた。だが、各党が憲法改正案の協議や調整を行う国会の憲法審査会は、国会開幕以後、2月28日の時点で衆参両院とも一度も開催されていない。今後の開会情報も、ホームページを見ると、「開会予定の審査会はありません」(衆議院憲法審査会)、「次回の開会は未定です」(参議院憲法審査会)とのことで、改憲案の取りまとめに向けた実質的な協議がいつスタートするかは不明である。

2月7日、自民党の憲法改正推進本部は勉強会を開き、改憲案に盛り込む改正項目の絞り込みに向けて、巨大災害時などの緊急事態に対応する条項の新設を取り上げた。与党の自公両党と改憲支持の日本維新の会の3党の間で合意の可能性が高いと見られる改正項目は、巨大災害時の国会議員の任期延長など、国民の基本的人権の制限を含まない緊急事態条項の新設と、維新が提唱する教育無償化のための義務教育規定の改正の2点である。自民党は2012年に独自の改憲案(「日本国憲法改正草案」)を策定しているが、それは棚上げにして、どうやら改憲第1弾はこの2点に的を絞る方向に進みそうな気配だ。

一方、自民党は3月5日の党大会で採択する2017年度の運動方針案を2月21日に発表した。その中で、「改憲に向けた道筋を国民に鮮明に示す」と強調するとともに、「発議に向けて具体的な歩みを進める」と唱えた。初めて「発議」という言葉を正面から打ち出したが、2度目の政権で在任4年が過ぎた安倍首相と自民党は、近い将来に実際に改憲に挑戦する構えで、具体的な改憲スケジュールの設定を考慮し始めていると思われる。

改憲スケジュールについては、このシリーズでも紹介したように、公明党の北側一雄憲法調査会長は「『スケジュールありき』ではない。まず合意形成を」と主張し、自民党憲法改正推進本部長代理の中谷元氏も「『いつまでに』というものはない」と話している。

首相は改憲について現憲法では何の権限も権能も有せず、改憲問題は国会の専権事項という制限があるから、改憲スケジュールも国会次第というのが現実だが、そうはいっても、「最大の改憲推進力」である安倍首相が「在任中の改憲実現」に強い意欲を示している以上、想定する改憲スケジュールも、首相の意欲と政権の事情が大きく影響すると見るべきだろう。だとすると、どの時点で改憲に挑戦することになるのか。

改憲作業は、衆参の憲法調査会での各党協議を経て、改正項目の絞り込み、改憲原案の取りまとめ、改憲案の国会発議のための衆参の議決、可決後の国民投票というステップを踏む必要がある。維新の憲法改正推進委員会の小沢鋭仁会長は「今国会での発議を目指す」と話している。だが、2017年度予算の成立までは、憲法審査会は事実上、開店休業が続くと見られるから、今国会でスタートとなった場合も、作業開始は4月以降だろう。6月18日の会期末までに発議の衆参議決に持ち込むのは容易ではない。