安倍首相自ら断行を宣言した農協改革。本当の農業改革につながるのはJA全農の株式会社化ではない。改革は地域から始まらなければいけない。

農家を食い物に巨大化してきた農協の問題点

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)推進のお題目は雲行きが怪しくなってきたが、農業を成長産業に転換していくために安倍政権が推し進める農政改革。その本丸は首相自ら「60年ぶりの断行」を宣言した農協改革である。

2015年8月には改正農協法が成立(16年4月1日施行)して、全国農業協同組合中央会(JA全中)の監督・指導権を廃止することなどが決まった。農業協同組合(農協)はJA全中を頂点に全国農業共同組合連合会(JA全農)や農林中央金庫(JAバンク)などの全国組織があり、その下に都道府県レベルの組織があって、さらに末端に約700の地域農協がぶら下がっている、というピラミッド構造の組織。JA全中は監査と経営指導を通じて地域農協を統制して資金を吸い上げてきたから、この権限がなくなれば地域農協の自由度は広がって、創意工夫の余地も出てくる。

参院選が終わって政局が一息ついた16年秋には農協改革の第二幕が切って落とされた。旗振り役は自民党農林部会長の小泉進次郎氏。第二幕の改革ターゲットは農協の経済事業の主体であるJA全農だ。JA全農は地域農協を通じて農家に肥料や農業機械などの生産資材を供給し、農家から集荷した農産物や加工品の販売を行うなどJAグループの流通機能を司っている。しかし農協が売っている肥料や農薬は国際価格に比べて明らかに高く、ホームセンターやアマゾンで買ったほうが圧倒的に安い。それでも出荷先である農協との付き合いを大事にしている農家は、角が立たないようによそでは買わない。農協経由でトラクターを買えば、補助金だってもらえる。

流通商社のようなJA全農の存在が、かえって日本の農業を高コストにして、競争原理を妨げている。これを解体することは農協改革の目玉の一つで、政府が奥の手として考えている改革案が「株式会社化」だ。JA全農の年間取扱高(売上高)は5兆円近い。肥料で8割ほか、農薬や農業機械でも圧倒的なシェアを誇るが、「協同組合」という理由で独占禁止法の適用を免れてきた。法人税も安いし、固定資産税免除などの優遇措置も認められる。しかし「協同組合」から「株式会社」に移行すれば独禁法の適用対象となり、農協も競争原理にさらされて、それが農業の生産性向上、農家の所得向上につながる、という理屈だ。JA全農は既得権を剥がされる「株式会社化」には当然大反対で、頑強に抵抗して強制的な株式会社化を見送らせてきた。