危険な原発とどう向き合うか。小泉進次郎は学生たちに、孫正義は国会議員を前に、講義を行った。田原総一朗も注目するこのスピーチをすべて公開する。

――孫正義 そこで登場するのが自然エネルギーです。太陽光、風力、地熱、水力など、地球に天然自然にある恵みを利用して人間が使う電力を得ようというものです。

御前崎風力発電所。これまで脚光を浴びてこなかった自然エネルギー。(AFLO=写真)

御前崎風力発電所。これまで脚光を浴びてこなかった自然エネルギー。(AFLO=写真)

先日、菅首相も交えて自然エネルギーについての対談を行いました。その際に音楽家の坂本龍一さんからビデオメッセージをいただいたのですが、その中の彼の言葉に私は大変感動いたしました。

「真の文明は山を荒さず、川を荒さず、村を破らず、人を殺さざるべし」(編集部注・足尾銅山鉱毒事件を告発した明治の政治家田中正造氏の言葉)

我々人類は文明として電気を生み出し、電気を普及させてきましたが、その文明の利器が結果として人を傷つけて不幸にしてはならないのです。思い切り空気を吸うこともできない、水も野菜も魚も安心して口に運ぶこともできない。そんな世界は真の文明国家とはいえません。もう一度私たちが人を幸せにする文明を築くためには、やはり根本的なエネルギー転換が必要なのです。

さてその自然エネルギーですが、いまのところ日本における総電力に占める割合はわずか約9%にすぎません。それもそのほとんどは水力で占められており、太陽光や風力、地熱発電などのいわゆる新エネルギーは1%のみ。その「現在9%の自然エネルギーを、2020年までに30%に引き上げよう」それが私の提言です。

そもそもなぜ自然エネルギーが日本で普及していないのか。その最大の理由は、電力買い取り制度の不備にあります。つまりいくら発電しても売ることができなければ産業としては成り立ちません。

現在、日本で採用されているのは「(太陽光発電により)発電した電力のうち、自宅等で利用する分を上回る余剰分のみ買い取ります」という部分的な買い取り制度です。しかし「余剰分」と限定されては、企業が自然エネルギー産業に参入したいと望んでも事業として成立しません。今年は売れても来年も同様に売れなくては商売としてはリスクが高い。

反対にドイツやスイスなどの欧米で自然エネルギーが盛んなのは、この「全量買い取り制度」がしっかりしているからです。多くの国で、電力会社は他社が生産した電力でも、全量買い取らなければいけない義務を負っています。しかも電力の買い取り年数は約20年から25年、買い取り価格も1キロワット当たり40円から60円ほどに定められている。年数と価格が固定しているため、事業としても十分将来の採算をとることができるのです。日本でも「電力会社は、1キロワット当たり40円の電力を20年間全量買い取るべし」とはっきり決めるべきです。この一行の法案で日本のエネルギー問題のかなりの部分が解決されるのです。

<strong>孫正義●ソフトバンク社長</strong>。1957年、佐賀県鳥栖市生まれ。80年、ソフトバンクの前身「ユニソン・ワールド」設立。ソフトバンクの売上高は3兆円を突破。孫氏は震災直後から原子力行政への提言を積極的に行っている。
孫正義●ソフトバンク社長。1957年、佐賀県鳥栖市生まれ。80年、ソフトバンクの前身「ユニソン・ワールド」設立。ソフトバンクの売上高は3兆円を突破。孫氏は震災直後から原子力行政への提言を積極的に行っている。

私が国にお願いしているのは、3つのルールづくりです。1つがこの「全量買い取り制度」であり、あと2つが「送電網への接続義務」と「用地の規制緩和」です。電力は売れなければ商売になりませんが、同様にせっかくつくっても送電してもらえなくては意味がありません。ところが、これまでの電力会社はこの送電もなかなか認めませんでした。

たしかに規定には送電してくれそうに書いてあります。けれど実態はなかなかに条件が厳しい。こういう類のことは私自身、通信業界で嫌というほど体験してきましたが、文面に「ただし」とついているのです。「電力会社は、電力供給者からの接続を拒んではならない」、「ただし、電気の円滑な供給に支障が生じるおそれのあるときを除く」とある。

しかし「おそれ」といってしまった時点で、何でも「おそれ」にできてしまいます。でも「あなたのおそれと、私のおそれは違う」んです。この曖昧な「ただし」を抜かして、すっきりと前半部分のみにしなければ、一部の電力会社の掌ですべてが決定する現状を変えることはできません。電力会社はすべての電力の「送電網への接続義務」を担うべきなのです。

最後に「用地の規制緩和」に関してお話ししましょう。太陽光発電や風力発電には膨大な土地が必要で、日本にはそれに適した土地など余っていないという声もありますが、しかし現在、日本には耕作を放棄している土地がたくさんあるのをご存じですか?

※本稿は6月15日に行われた「エネシフ・ナウ!」の講演要旨です。

※すべて雑誌掲載当時

(三浦愛美=構成 小倉 和徳=撮影 AFLO=写真 ロイター/AFLO=写真)