なぜ、犬がいると認知症患者は笑顔になるのか?

特別養護老人ホームや介護老人保健施設を見学したことが何度かあります。

施設内で提供されるサービスはいろいろありますが、なかでも入所者の素の表情を見ることができるのが、レクリエーションです。

職員がリードして、歌を歌ったり、軽い体操をしたり、しり取りをしたり、お手玉を投げて的に当てるといったスポーツ的要素のあるゲームをしたり、塗り絵をしたり……。

高齢者施設で行われるレクリエーションは単に娯楽という目的だけでなく、適度に体を動かすことで身体機能の維持を図ったり、指先や脳を使ったりすることで認知症の発症や進行を遅らせるといった効果が考慮されているそうです。

見学した施設はどこも、入所者の方々を飽きさせないよう多様な工夫を凝らしたレクリエーションを行なっていましたし、リードする職員も楽しんでもらおうと一生懸命で好感が持てました。

ただ、様子を見ていると、参加者全員が楽しんでいるという感じではない。

嫌々参加しているのか、それとも認知症のせいなのか、職員の呼びかけに応じない人が数人いました。色々なタイプの人がいて求めるものも異なる高齢者施設では、こうした温度差が生じるのは仕方がないのかな、と思っていたわけです。

ところが、昨秋、ある施設を見学させてもらったところ、そんな印象を覆す光景に出合いました。フロアに集まった15人ほどの高齢者全員がにこやかな表情で、穏やかな空気が漂っている。楽しい時間を共有しているという感じなのです。

そのにこやかな視線の先には3匹の小型犬がいました。

ある人は犬をひざの上に乗せ体をいとおしそうに撫でている。おやつをあげている人もいる。また、ある人はボールを入所者に投げてもらって遊んでいる犬をニコニコしながら目で追っている。職員の方に聞くと「ドッグセラピー」とのこと。月に一度、ドッグセラピストとともにセラピー犬が派遣されて、入所者(希望した方)とともに過ごす時間を作っているそうなのです。