なぜ“泡沫・暴言候補”トランプは大統領選に勝利できたのか? この連載では、「現代マーケティングの父」フィリップ・コトラーの政治マーケティングフレームワークに当てはめながら、トランプの選挙マーケティングについて解説する。今回は大統領選を勝ち抜くためのマーケティング戦略、ブランディング戦略について考える。

ターゲットは「怒れるサイレント・マジョリティー」

セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングとは、市場を同じような購買志向をもった顧客グループに分解し(=セグメンテーション)、市場のなかで自社が狙うべきセグメントを特定し(=ターゲティング)、顧客の意識のなかで自社の商品が独自の地位を占めるようにすること(=ポジショニング)である。

これらの3つのプロセスを繰り返し行い、内部・外部環境分析の結果に最も合致した最適なターゲットとポジショニングを策定することが、政治マーケティングにおいては狭義のマーケティング戦略とされるくらい重要なポイントである。

大統領選挙におけるセグメンテーションの手順は、図1で示される。有権者全体のマーケットを政党別支持者層で分類する第1次セグメンテーション、それを受けて通常の商業マーケティングのように、人口動態などのデモグラフィック要因、有権者の行動パターン、心理パターンなどでさらに分類する第2次セグメンテーションに大別される。

また図2は、第2次セグメンテーションのなかでも、人種・民族という視点からセグメンテーション・ターゲティングを行ったもので、今回の大統領選挙においてトランプ陣営が中核に据えたものの1つだ。

トランプは、「現状に怒りや不満を抱くサイレント・マジョリティー」の典型として、白人労働者層をメインターゲットに置いた。そして、同じ感情を抱く共和党地盤の白人層全般、男性層、さらには無党派層が多いとされる中間所得層の取り込みを図った。