知らなかった!では済まされない不動産贈与の落とし穴

離婚は、決して不幸な出来事ではない。

離婚にはマイナスのイメージがあるが、夫婦がお互いに望んだ結論でもあり、新しい人生のスタートとも考えられる。離婚が成立して、慰謝料の授受や財産の分与も終わった。晴れて第2の人生を謳歌しよう! 

ところが、そんな矢先に偽装離婚とみなされて詐害行為(債務者が債権者を害するため自己の財産を減少させる行為)の疑いをかけれらたら……。まさに青天の霹靂というべき不幸に襲われてしまうケースがある。

『離婚とお金 どうなる? 住宅ローン!』高橋愛子(著)プレジデント社刊

飲食店を経営していた夫と4年前に離婚したSさん(47歳)は現在、事務職で働くシングルマザー。離婚協議は小さなもめごとはあったものの、比較的スムーズに話は進み、円満な離婚に落ち着いた。

正式な離婚手続き前だったものの、Sさんは元夫と相談して財産分与のつもりで担保に入っていない自宅マンション(時価1500万程度)の贈与を受け、贈与税も支払い、子供と平穏に暮らしていた。実は、この贈与はある“企み”を持った元夫の主導でされたことのようで(妻は離婚に関する法知識があまりなかった)、後述するようにのちに大変困った事態を招いてしまうのだ(*なお、離婚前に贈与すれば贈与税は発生する。離婚後に贈与したら贈与税はかからず、贈与した側に譲渡所得税がかかる。ただし、3000万円控除が適用されているので、購入時から離婚に伴う“財産分与”による利益が3000万円を超えない限り税金はかからず、実質的にほぼ税金はかからない)。

ただ、元夫とは音信不通。のちに(離婚後)、夫の事業が悪化し債務に追われていたことが判明した。金策に奔走した元夫は体調を崩し、とうとう支払いが不能になってしまったらしい。

そんなある日、裁判所からSさんの元に「不動産仮処分命令申立書」が届いた。

仮処分命令とは債権者からの申立てにより、裁判所が決定する暫定的処置。裁判で争っている間に、訴えた相手が不動産を処分されないように「仮に処分」しておくという登記のことで金銭債権以外の権利を保全する点で仮差押と異なる。

しかし、いずれにしても不動産を処分されてしまう知らせには違いない。よくよく調べてみると元夫が事業資金で借りた債務の返済が不能となり、その後、債権回収会社に債権譲渡がされていたのだ。

さらに、なんとSさんが離婚の際に受けた贈与が財産を不当に隠したとして、詐害行為取消権(債権者が債務者の法律行為を一定の 要件の下に取消してしまうことができる権利)の訴えを受け、不動産に仮処分登記がされてしまったのだ。