「裁判」として見たら大欠陥だけど

先日のNHKスペシャル「ドラマ東京裁判」は、面白い視点から描かれていた。僕も東京裁判については色々勉強したけど、裁判官の人間ドラマという視点で勉強したことはなかった。と同時に、東京裁判を所与の前提として、日本は侵略国家だ! 悪い国だ! A級戦犯は死刑で当然! と教わって育ってきた僕らの世代の固定観念に、ガツンと一発食らわせてくれたのではないだろうか。

NHK公式サイトより

東京裁判は確かに大欠陥の裁判だ。当時、侵略戦争を個人の罪として裁く法的根拠はなかった。後から作った法律で裁いてはならないという「事後法の禁止」という法論理は人を処罰する法律理論の中でも基本中の基本。法による統治ということが進んでいる近代国家であればあるほど、事後法の禁止の原則は絶対に守らなければならない。

人は事前に定められた法律があるからこそ、それを守る行動をとることができる。後から作った法律で処罰できるなら、時の権力者が権力の乱用によって特定の者を処罰することができる。このような事態を防ぐことが近代国家の絶対的目標であり、これが事後法の禁止という法論理だ。

ところが、戦勝国である連合国は、日本の指導者を処罰しなければならないという結論から先に入って、理屈を作っていく。日本の指導者を処罰すべきと考える裁判官たちは、後から作られた国際軍事裁判所憲章を絶対的なものとしてこれに基づいて裁判を行い、日本の指導者を処罰していくが、もしこれが自国内での裁判であれば彼らは同じ論理を採らなかったと明言する。日本の指導者、ナチス・ドイツを処罰するための特別な理屈であることを彼らは認めていた。

事後法の禁止。侵略戦争を裁く法律がない。これは東京裁判の大欠陥、大問題の柱なんだよね。

そして東京裁判を勉強していた頃の僕もそこに疑問を感じていた。東京裁判はおかしい、欠陥だ、勝者の復讐だ、と。30歳前後の頃かな。まあちょっと勉強したての頭でっかちのときは皆、このような感覚になるんだよね。でもその後ちゃんと勉強して、やっぱり現実の政治に身を置いて自分の歴史認識をきちんと整理するために徹底して勉強したら、東京裁判に対する考えもガラッと変わったね。

東京裁判は、「裁判」と名が付いているけど、あれは裁判じゃない。政治なんだ、と。裁判だと考えると色んな矛盾が生じるけど、政治と考えればすっきりする。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.35(12月20日配信)からの引用です。全文はメールマガジンで!!

(撮影=市来朋久)
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