目の前にある食べ物や飲み物は、はたして体にいいのか、悪いのか。ボストン在住の医師・大西睦子先生がハーバード大学での研究や欧米の最新論文などの根拠に基づき“食の神話”を大検証します。

「塩分は控えめに」――健康ブームの高まりとともに、日本人の多くが、そんな意識を持っているはず。では、実態はどうでしょうか

世界保健機関(WHO)の食塩摂取上限目標は1日5g。米国では心血管疾患の予防のためのガイドラインで、1日3.8~6.0gを上限としています。日本では厚労省「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」の報告書で、18歳以上の男性は1日8g未満、女性は7g未満を目標値として設定。日本高血圧学会減塩委員会の推奨値は、1日6g未満です。

これに対し日本人の摂取量は、12年時点で成人男性1日11.3g、女性9.6g。意識の高さとはかけ離れた実態が浮かび上がってきます。

とはいえ、いくつかの疑問も。目標値自体が設定者によって幅があるうえ、食塩摂取量の上限ばかりが示され、下限が示されていません。また日本人は、塩分を摂りすぎといわれながらも長寿という事実。

医学界最高峰の雑誌と評される「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」には14年、次のような論文が掲載されました。17カ国、10万人以上を対象に平均3.7年間の追跡調査を行った結果です。ナトリウム排泄量が1日につき食塩相当量17.8g以上の人は、死亡または主要な心血管疾患のリスクが15%増加。一方、1日7.6g未満の人でも死亡または主要な心血管疾患のリスクが27%増加。1日7.6~15.2gの人は、ほかの人たちに比べ死亡や心血管疾患のリスクがより低い。

つまり、塩分の摂りすぎだけでなく摂取不足あるいは排泄不足も問題というわけです。ただし、NEJMの編集者は「減塩のリスクと利益について、最終的な結論にはさらなる研究が必要」としています。

昔ながらの和食は塩分が多めながら、野菜などからカリウムを十分に摂ることによって、食塩の主要構成要素であるナトリウムの悪い作用を打ち消してきた側面もあるでしょう。減塩だけに目を奪われるのではなく、食事全体のバランスをコントロールすることこそ重要といえそうです。

 
大西睦子
内科医師・医学博士。東京女子医科大卒業。国立がんセンター、東京大学を経て、2007年から13年まで、米国ハーバード大学リサーチフェローとして、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度受賞。著書に『健康でいたければ「それ」は食べるな』『カロリーゼロにだまされるな』など。
(小澤啓司=構成)
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