心を落ち着かせる方法をアドバイスする

藤平信一・心身統一合氣道会会長

【三宅義和・イーオン社長】世界24カ国で心身統一合氣道会の普及、指導をされています。またロサンゼルス・ドジャースの選手たちの指導もされましたが、現在、世界中にお弟子さんは何人いるのでしょうか。

【藤平信一・心身統一合氣道会会長】およそ3万人です。ロサンゼルス・ドジャースやサンディエゴ・パドレスを含めて、心身統一合氣道の土台である「氣」を学ぶ人々を含めると5万人を超えます。

【三宅】そうした人たちは合氣道のどこに惹かれるのでしょう。武道としてなのか、あるいは何か東洋の神秘的な思想に関心があるのでしょうか。

【藤平】藤平光一は戦後まもない1953年にアメリカに渡り合氣道を普及しました。その当時からアメリカでは「生活の中の合氣道」として、自らが持つ能力を最大限に発揮し、より健康で充実した人生を歩むことができる教えとしてとらえられています。最近では日本でも話題になっている「マインドフルネス」の具体的な実践法を求めて来られる方が増えています。

【三宅】そう考えると、すんなりと受け入れられます。確かに、メジャーリーガーが、合気道の道衣をつけて、畳の上で稽古をする姿は想像しにくい(笑)。

【藤平】ロサンゼルス・ドジャースの下部組織であるマイナーリーグには200人ほどの選手がいます。それぞれに才能のある選手なのですね。ところが、その中で見事メジャーリーグに上がれる選手は、わずかに数%。残る9割以上の若者たちは夢破れて去っていくわけです。そこで、どういう選手が勝ち抜いていけるかというと、ここ一番という場面で結果が出せるかどうかに尽きます。そこが彼らにとっては最も重要なのです。

【三宅】どんなスポーツでも精神面は大切ですからね。ドジャースのような名門チームの選手でも、心身統一できているかどうかで、一流プレイヤーになれるかどうかが決まるのでしょうね。

【藤平】なかには最初から精神的にしっかりしている選手もいます。しかし、長いシーズンにおいて常に安定した状態を保てるかというと、そんなことはなくて、ボタンの掛け違いのように調子を崩してしまうことが少なくありません。私の役割は、選手が持っている能力をいかに発揮させるかということになります。もちろん私自身、野球は未経験ですから、大事な場面で持っている力をいかに発揮するかを指導しました。

心身統一合氣道では「臍下(せいか)の一点」と言っていますが、下腹の力が入らないところ、そこに心を静めることをしてもらいます。すると、自然に心が静まり、姿勢も安定する。これは、アスリートにとって不可欠な盤石な姿勢で、瞬時に動ける体勢です。この感覚を会得したら、今度はそれを維持することを訓練します。これを続けていくと、どれだけ激しく動いても、姿勢が乱れるということはなくなります。

さらに進んだ段階では、それが無意識でできるようになります。意識してやっているようでは本物とはいえません。頭でわかっていても、身についていなければ、厳しい現場では通用しません。それができるように繰り返し訓練します。