「問いかけ」次第で日本人は変わる

日本人が行動を変えるヒントは「問いかけ」にあります。問いかけを変えていくことで、人の行動も変わっていきます。IDEOには「How might we…」(=どうすれば私たちはそれができるか)という課題の発見方法があります。

トム・ケリー氏●1991年、兄のデイヴィッドとIDEO設立。社団法人Japan Innovation Network理事。著書に『クリエイティブ・マインドセット』など。

「How」の部分は「どうするか」と同時に、それが常に改善が可能なことを前提として、どう実現していくかを表しています。「might」に関しては、「How」に対して一つの確定的な答えがあるのではなく、無数の可能性があるということを示しています。最後の「we」という部分は、1人の話ではなくて、みんなで連携してプロジェクトを進めることを意識するということです。この「言葉」を実践していくことで、より自由な発想が生まれる文化をつくりだせる。今では多くのシリコンバレーの企業で使われている手法です。

これは、あくまで新しい発想を得るための手法です。

日本人は分析的思考や論理的思考に関しては、もうかなり高いレベルにまで達しています。たとえば「エクセル」の統計データ1つにしても、これ以上効率化されたデータをつくるということは非常に難しい。だが、新しい発想を得るためには、これまでとは違う新しいアプローチが今後ますます求められていくでしょう。

新しい発想を得るための方法は3つあります。1つ目が必ず共感からはじめる。つまり、何事も否定から入らずにアイデアを拡大していくことです。2つ目が、もっと実験していくということです。失敗を「機会」と捉える。3つ目は社内に眠っているアイデアを活用することです。

何か新しいことをしようとすると、不確実性を突き詰めるために否定や批判から入ることが当たり前のような風潮が、日本にはあるように感じます。しかし、それではアイデアの芽は育っていかず、自由闊達な議論が起こりにくい。否定から入るのではなく、むしろ私たちは共感からはじめることを大前提に掲げています。