年が上がるにつれて周囲から期待される立ち居振る舞いは変わっていく。サラリーマン経験がある識者に、年代別の「理想の振る舞い方」を聞いた。

「20代の振る舞い方」
●教えてくれる人:落語家 立川談慶さん

私は1991年、立川談志の18番目の弟子として入門しました。慶応大学を卒業後、ワコールで3年間勤務してからの落語界入りでした。「見習い」からスタートし、1年2カ月かかって「立川ワコール」の名前で「前座」になり、それから9年半も前座時代が続きました。普通は3~4年ほどですから、異例の長さです。「二つ目」に昇進したのは2000年で、談志より「立川談慶」と命名されました。「真打ち」になったのは05年。慶応出身では初の真打ちの落語家です。

落語家 立川談慶さん

マナーや礼儀は、若手サラリーマンにとって基本中の基本ですが、実は落語の世界でも非常に重要視されます。それですべてが判断されてしまうといってもいいくらいで、だから師匠には徹底的に教育されました。とにかく、挨拶。大きな声で、ハッキリと、「おはようございます!」といえと。礼状も必ず書くよう指導されました。実際、師匠は非常に筆まめで、いつも直筆の礼状を書いていました。

マナーや礼儀は、柔道の受け身みたいなもの。ケガをしないように、技を習う前に学ぶ作法のようなものなのです。元ヤクザで俳優の安藤昇さんは、「相手に敵意がないことを示すのが礼儀だ」ともいっています。ヤクザの世界は命がけですが、それは落語家やサラリーマンも同じ。そうすれば、いらない敵をつくらなくて済みます。

また、入門して最初に師匠にいわれたのが、「俺を快適にしろ」という言葉です。続いて、「不合理、矛盾に耐えること。それが修業」だとも。

私はワコール勤務時代に、合理的に働くことを学びました。企業は利潤を追求しますから、新入社員だろうが部長だろうが合理的に仕事をするのが基本です。ところが、落語家の修業は真逆。師匠からの無理難題、つまり「無茶ぶり」に応えることが必須事項で、当初はかなり戸惑い、苦しみました。

たとえば、「おい、アレ、出せ!」と師匠から指示が出ます。それは机の上のメモ書きだったりするわけですが、極端に簡略化した形の指示だから、話の前後が読めていないとわからない。間違うと地獄です。何度、師匠を不快にさせたかわかりません。特に私は極度に緊張するたちなので、より師匠をイライラさせてしまうのです。