Q.朝礼でスピーチすることに。どう話すのが正解か。
[A]「生産性を上げよう」
[B]「イノベーションを起こそう」
[C]「イタリア人みたいに働こう」

「コストダウン」か「やりくり」か

私、自分が話していることは、たぶん3割ぐらいしか人に伝わっていないと思っているんです。逆に言うなら7割は伝わっていない、と。どうしたら伝わるかということをいつも考えています。

ピーチ・アビエーションCEO 井上慎一氏

最初にそう思ったのは、全日空の人事部にいた30代半ばのころだったでしょうか。社内研修の事務局として、研修の主旨を話すときに、生産性向上、コストダウン、イノベーション……そんな言葉を使ったように記憶していますが、とにかく聞いている人にほとんど伝わっていないと感じたんです。私がまだ若かったこともあるとは思います。みんな白けていて、モチベーションが上がっていない。

あるとき、私が悪いんだ、と気がついたんです。言霊というものがある、と言いますよね。でも、私自身の言葉が上滑りしていて魂が入っていなかった。抜け殻のような言葉ばかりだと反省したんです。それからですね、少しずつ言葉を選ぶようにしたのは。

たとえば、コストダウンという表現。この言葉を聞いただけで、「またかよ」ってネガティブな気分になるのではないかと思ったんです。ネガティブな気分になったら、誰もコストダウンに本気で取り組んだりしません。成果が出なければ、言うだけ無駄だし、伝わっていないと同じです。「生産性を上げよう」という掛け声だって、堅苦しくて心に響かないですよね。人のモチベーションを刺激しないと思うんです。気配り、おもてなし、ホスピタリティー……どれもパワーのない言葉ですね。

要は、エッジが立っていて「刺さる言葉」こそ人の心に残るのではないかと考えました。刺さらなければ、その言葉は耳の右から入って左に抜けていくだけです。「コストダウンしろ」なんていう常套句を上司がいくら大声で張り上げたって、絶対にいいアイデアは出ません。弊社では「やりくり」と言っているんです。

「必要な物までなくせとは言わない。必要な物は調達するとして、なんとかやりくりしよう」と。私たちがいま座っている椅子、実はこれ、もらい物なんです。新品同様でしてね。いらなくなった物を安くいただいてきたりして、文字どおり「やりくり」しています。

言葉を選び抜いていくうえで参考になるのは読書ですね。新聞、雑誌も読んで、「この言葉いいな」と自分に響くものがあったらメモをとったりします。歴史・時代小説も好きですが、そこで出合う言葉って、わりと高尚で、自然体ではない感じがしますね。落語がいいんですよ。江戸落語、関西の上方落語、どちらもいいですね。吉本新喜劇の、笑(わら)かさないと気が済まないという徹底した感じもいい。漫才もいいですね。笑いは大いに大事です。