私はこれまで、100社以上の経営幹部育成に携わってきた。リーダーの役割は、「決断すること」だ。環境変化が目まぐるしく、ビジネススピードも速い現代では、成果を出すために「速い決断」が重要だとされている。また、私の肌感覚ではあるが、即決できない人はその他のマネジメント能力も劣っていることが多い。幹部育成の際には、職場の上司や部下から本人の「マネジメント能力」を評価してもらうのだが、「即時の意思決定と率先行動」のスコアが低い場合、往々にしてその他のスコアも低いのだ。

リンクアンドモチベーション執行役員 麻野耕司氏●中小ベンチャー企業向けコンサルティング事業の責任者に当時史上最年少で就任。気鋭の組織変革コンサルタントとして注目を集める。現在、複数の企業の社外取締役、アドバイザーを務めている。

しかし、決められないリーダーは多い。それには大きく2つの理由がある。1つめは、心理学的に言えば「現状維持バイアス」というものだ。たとえば、A、B、Cの選択肢からAを選ぶ場合、それはB、Cという選択肢を「捨てる」ことになる。しかし、人間には「現状維持」を望む特性がある。そのため、決断に対して抵抗感を抱くのだ。

もう1つは、「正しい決断」をしようとすることだ。もちろん、間違った決断で部下を振り回すわけにはいかないが、「この情報を収集すれば精度が上がる」という確証がなければ、闇雲に決断を先延ばしするべきではない。ミーティング中に部下から「もう少し考えて決めます」と言われたら、私はすぐに「違うぞ。すぐ決めよう」と止めるだろう。

迷ってはいけない!孫正義も支持するファーストチェス理論

私がここまで「即決」をすすめるのは、そのメリットを知っているからだ。1つめは「ファーストチェス理論」だ。これは、5秒で考えた手と、30分かけて考えた手は、86%が同じだというもの。つまり、長い時間かけて考えて出した結論は、直感とほとんど同じなのだ。孫正義氏もこの理論を支持し、企画を採用するときも不要な長考はしないという。

2つめは、リクルートでよく言われる「三角形の二辺の和は底辺より短い」という理論だ。これは「ゴールまでを最短距離で進むためにスタート地点で立ち止まるより、(ゴールらしき方向に向かって)走り出してから軌道修正したほうがゴールにたどり着くのは速い」という意味。「正しい決断」に囚われると、結果的に後れを取ることになる。