『人口論』どおりにならなかった現実世界

経済学をある程度かじった人なら、ロバート・マルサスの名前を知っているだろう。アダム・スミス、デイビッド・リカードなどと並ぶイギリスの古典派経済学者の1人で、18世紀を代表する経済学者の1人だ。

マルサスの代表作である『人口論』(1798年初版)は、次の2つの自然法則を基に著されている。

(1)人が生きていくためには食料が不可欠である
(2)男女両性の性欲は今日同様いつまでも大きく変わることはない

そしてマルサスは、人口は制御されない限り等比数列的に増えるのに対し、食料は等差数列的に増えるにすぎない、とした。つまり、人口は1、2、4、8、16、32とネズミ算的に増えていく。これに対して食料は、1、2、3、4、5、6と増えていくにすぎない。

この結果、供給される食料以上に人口は増えることはないという理屈だ。

『人口と日本経済』吉川 洋 (著) 中央公論新社

これに対して、現実はどうなったか。マルサスの理論を超えた食糧を確保することに、少なくとも先進国は成功した。18世紀半ばから始まった産業革命の成果もあり、ヨーロッパでは人口爆発ともいうべき時代を迎えたのである。

そしていま、先進国では所得が増える中で少子化に悩むという、過去の経済学の常識を覆す現象が起きている。マルサスやアダム・スミスは、所得が増えれば人口が増えると考えた。これに対して、現実はまったく逆の現象が起きているのである。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、日本の人口は2110年に4286万人になる見通しだ。今後およそ100年で、日本の人口は3分の1に減少する計算になる。こうした予測を基に、「今後、日本の経済は縮小するしかない」といった声が大勢を占めている。こうした人口ペシミズムに対して、異論を唱えるのが本書である。