若い親ががんや重篤な病気になったとき、子どもにどうやって伝えたらいいのでしょうか。聖路加国際病院では、チャイルド・サポート・チームを常設しており、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(Child Life Specialist、略してCLS)と多職種がチームで病気の親とその子どものサポートを行っています。CLSの三浦絵莉子さんと石田智美さんに、病気の親を持つ子どもさんへの対応について、お話しいただきました。

病気の親を持つ子どもの心をサポート

「お母さんは、今、お薬で眠っているからね。お母さんにとってはお薬は必要なんだよ」
「お父さんのそばに行ってみる? そうしたら、あっち行ってお父さんに絵を描いてあげようか?」

三浦絵莉子さん

病院のベッド脇で居心地悪そうにモジモジしていたり、どうしたらよいかわからず戸惑っている子どもの姿があると、こんなふうに声をかけるスタッフがいます。彼らはチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)。病気の親を持つ子どもたちの心のサポートし発達を助ける人たちです。

聖路加国際病院には、小児科医、臨床心理士2人、CLS2人の計5人で構成されているチャイルド・サポート・チームがあります。CLSの三浦絵莉子さんと石田智美さんは、それぞれ、米国で専門の教育を受け、CLSの資格を取得した専門職。CLSは米国では1980年代から注目されている取り組みで、聖路加国際病院は2008年にCLSを含めたチャイルド・サポート・チームを立ち上げています。

三浦さんは、CLSの役割について、次のように話します。

「子どもたちは、それまで当たり前のように家にいて家事をしたり自分の面倒を見てくれていた母親や、いつも仕事に行って忙しくしていた父親が急に家に帰らず病院に入院するといった、いつもと違う環境を強いられます。しかし、その明確な理由を聞かされないでいると、なんらかの異変を敏感に感じ取り、不安な気持ちになるものなのです。大人にはそのつもりはなくても、このときの大人の対応次第で、その後の子どもの心にトラウマが生じることにもなりかねません。私たちはそういう場面で、子どもさんの発達段階に応じて、ご家族のサポートをしたりアドバイスをさせていただいています」

三浦さんが担当したあるケースは、一人の母親、美穂さん(仮名)からの相談でした。余命数週間という30代のご主人の高志さん(仮名)が入院している病院に息子の悟君(仮名・9歳)が来ても、高志さんの近くにいられず、すぐ離れてしまうというのです。高志さんはもっと悟君と一緒にいたいのですが、悟君は高志さんとどう接したらよいのかわからないのか、すぐに病室を出てしまうのです。美穂さんは高志さんが亡くなった後、悟君がどうなるのか心配されていました。子どもには父親が病気だということはわかっていても、死が近づいていることまでは理解できていません。