介護は誰の身にも、ある日突然、降りかかってくる。私の母が倒れたのは、長女がわずか1歳半のときだった。その日から十数年という歳月、私は介護と子育てに追われることとなった。

介護する側になって途方にくれたのは、情報をどこから得たらいいのか、ということである。介護保険に関する本、介護体験談はあるが、今すぐに必要な情報は、なかなか得られない。区役所に電話をし、教えてもらった総合福祉事務所では、あえなく門前払いを食らった。応対に出た女性職員は、「それはご家族の問題でしょう」と軽く言い放ち、有料老人ホームのパンフレットをくれただけで、何の具体的なアドバイスもくれなかった。そのような例は意外と多い。

「それはプロではありませんね」とため息をつくのは、全国社会福祉協議会地域福祉部長の渋谷篤男氏だ。「残念なことに、職員によっても能力差がある。ほかの窓口も含めて、アプローチし続けることが大切です」と言う。

駆け込み寺として渋谷氏があげるのは、地域包括支援センターと、家族会だ。私自身も、このふたつにはお世話になった。支援センターは地域密着で現場型なので、能力の高いスタッフがいる。介護のアドバイス、サービスの受け方など教えてもらうことができる。

家族会は地域の集まりから全国規模のものまでさまざまだ。例会では、同じ悩みを持つもの同士、本音で話すことができる。介護家族にとってこれは一番必要なことだ。介護の苦しみや辛さを分かち合える仲間がいるだけで、精神的な負担はかなり軽減される。

「介護者には自分のことを考える時間と空間が必要」と説くのは、高崎健康福祉大学の渡辺俊之教授である。

そのためにも、デイサービスやショートステイなどの外部サービスを積極的に利用することは今や、必要最低条件となっている。だが男性介護者は仕事感覚で介護を捉え、ひとりで完璧にやり遂げようとして、煮詰まってしまうことが多いという。家族会でも自分のやり方をほかのメンバーに押し付けたり、教えたがるので敬遠されがちだ。介護は理屈では割り切れない。先の見えない長丁場を乗り切るためには、いい加減さも必要だ。制度内のサービスだけで収めようなどと生真面目に考えず、地域ボランティアなども組み合わせて活用する柔軟性がほしい。