視点の変え方、リポジショニング

「病は気から」という。同じ薬を処方しても、効き方は同じではないのだと、医師の友人から聞いたことがある。患者の医師に対する信頼、回復への思いの強さなどによって、薬の効果もまた変わってくるというのである。

企業の経営やマーケティングではどうか。

現代の市場環境は、高度化している。「気持ちの切り替え」だけで、行き詰まっていた企業や地域のあり方が急に好転することは考えにくい。とはいえ、経営やマーケティングが人間の行為の問題である以上、心のはたらきは無視できない。客観的な条件だけで、すべてが決しないところが、経営やマーケティングのややこしさであり、面白さだ。

同じ出来事であっても人間は、認知や活動の枠組み(フレーム)しだいで、受け止め方や反応が違ったものとなる。ネガティブな姿勢になったり、ポジティブな気持ちになったりする。

リフレーミングとは、セラピーや心理療法の分野で用いられてきた概念である(バンドラー&グリンダー『リフレ―ミング』星和書店)。視点が変わり、状況の意味が変われば、人々が意識する内容も変わる。セラピーにおいてリフレーミングが果たすのは、視点を変えることによって、人々がそれまで見逃していた価値や意義を新たに見いだし、何ができるかの発見をうながすという役割である。

マーケティングにも、このリフレーミングとよく似た概念がある。リポジショニングである。

リポジショニングとは、製品やサービスのイメージやカテゴリなどを変更し、ターゲットとする市場において、人々の心のなかに新たに位置づけ直す活動である。たとえば、地域の営業所が、国内出荷量No.2のビール・ブランドを、自県内ではNo.1であることを強調して売り出すといった取り組みである。ポイントは、フレームを国から地域に変えるだけで、ブランドのメジャー感は大きく変わるということである。