サブプライムローン問題に端を発した米国の金融危機が世界に波及し、実体経済への影響も出て、企業活動、個人消費への悪影響が懸念されている。この世界的な経済危機の中で、これまで長いトンネルの中で筋肉質への転換を図ってきた日本企業は、逆に相対的な優位性を発揮する可能性がある。その際に、何が優位性をもたらすだろうか。日本のバブル崩壊後の十数年は、不良化した有形資産の処理に追われた歴史だった。ゆえにそこからの転換は、優良な無形資産の再評価に力点が置かれるだろう。すなわち、不良有形資産の処理から、技術力、知的財産、ブランド力、経営力など優良無形資産の再評価である。これまで埋もれてきた資産の再評価には、新しい価値基準が必要となる。ここでは経営力の再評価につながる新しい価値基準を2つ紹介したい。リーダーシップに対する「フォロワーシップ」、コミットメントに対する「遊び」である。

新しい形の経営トップのサクセッション・プランとして注目したのが、『監督に期待するな―早稲田ラグビー「フォロワーシップ」の勝利』である。本著は、企業経営で常に議論されるリーダーシップ論をまったく違った視点で取り上げている。常勝早稲田ラグビー部の「カリスマ」清宮克幸監督の後を継いだ中竹竜二監督は自らを「日本一オーラのない監督」と言い放ち、それまでとはまったく違ったフォロワーシップという考え方を掲げて再び早稲田を大学選手権優勝に導いた。フォロワーシップとは、「リーダーについて行くフォロワーたちが、自主性を持って組織を支えていくという考え方で、フォロワーシップで組織を作っていれば、誰がリーダーであっても組織は機能し続ける」と定義する。秀逸な企業はカリスマ経営者の指導力が評価されるが、それゆえにその後継者が見劣りすることがある。一定の力量の者であればカリスマでなくとも企業が継続する、そんな企業像を彷彿とさせる。

一方で、経営の中核を占めるミドル・マネジメント層にとっての新しい価値基準として、ある種、日本の伝統技術で言及される経営の「遊び」とか「ゆとり」に注目した。『シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略』では、シャドーワーク、すなわち「見えない仕事」を自発的な「遊び」である非正規の行動と定義している。それによって集団思考から意図的に離れた思考を持つミドル・マネジメント層が育つとする。さらに、内発的なコミットメント度が高く、自分がかかわっている役割や責任領域に対して問題意識や志が高い人ほど、シャドーワークを起こす、と看破している。同様に「無駄」や「ゆとり」の大切さに言及しているのが、『コア・コンピタンス経営』で有名になったゲイリー・ハメルの近著『経営の未来』である。ここでは、ミッションクリティカルでない業務に就業時間の20%を従事させるというアイデアが紹介される。ビジネスの場での「遊び」「ゆとり」が自主性を前提としていれば、性善説に立った企業経営という見方もできよう。とかくコントロールを重視する経営に対してはアンチテーゼとして一読に値する。

『監督に期待するな』 中竹竜二著 講談社 本体価格1500円+税<br>
『シャドーワーク』 一條和生/徳岡晃一郎著 東洋経済新報社 本体価格2400円+税<br>
『経営の未来』 ゲイリー・ハメル/ビル・ブリーン著 日本経済新聞出版社 本体価格2200円+税