ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が活況を呈している。昨年の入場者数は東京ディズニーシーを抜き世界4位に浮上し、なかでも10月は単月ではあるが東京ディズニーランドの集客数を超えた。

森岡 毅(もりおか・つよし)
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。96年、P&G入社。ブランドマネージャーなどを経て、2010年にユー・エス・ジェイ入社。窮地にあったユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させる。12年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。

2001年の開業年度をピークに低迷していたUSJ復活の秘密は何か。それは「マーケティングを重視する企業になったこと」とUSJの森岡毅CMOは語る。そして大多数の日本企業はマーケティングが不十分、とも。

「マーケティングをわかってもいないし、信じてもいない。技術志向で成功してきた会社は、製品ブランドをつくる成功体験しかないからです」

ソニーがサムスンの軍門に下ったように、マーケティング思考を欠いた企業は技術力で追いつかれたら終わり。

前著『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』でUSJ復活の軌跡を描いた森岡CMOは、マーケティングとその重要性を理解している人のすそ野を広げたいとの思いで、本書では「高校生の娘にもわかるように」マーケッターの立場からマーケティング思考を解説するとともに、自身が実践してきた「キャリア・アップの秘訣」をまとめた。

一般に、マーケッターの仕事とは市場調査をしたり広告をつくったりというイメージで捉えられがちだが、本書を読むとそのイメージは覆される。マーケッターは消費者理解の専門家として事実に基づき市場を理解し戦略を立案し、リーダーシップを発揮して多くの部署を動かし、その実現に邁進する存在なのである。

だから森岡CMOが日本企業はマーケティングが不十分というのは単なる広告宣伝の巧拙といった話ではなく「経営資源をどこに投資するかという会社全体の戦略のなかにマーケティングを組み込めていない」という意味である。

しかしそうした知識と経験のある人材は非常に限られている。どうすればそれが得られるのかについて書かれているのが、著者自身のキャリアに触れた部分である。

「キャリアの初期は別にして、私はブランド全体や会社全体を見るポジションしかしたことがありません。意図して全体の意思決定に影響を与える場所、成果を出せるプラットフォームを選んできたのです」

マーケティングを武器として企業はどう戦い、個人はどうキャリアを築けばよいか。示唆に満ちた一冊である。

(森本真哉=撮影)
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