あなたはどうして話すのだろう。人を叱るためか、物を頼むためか。最も重要なことは、「誰に」「なにを」ではなく、「なぜ話すのか」である。相手や場面に応じ、目的をみつめなおすことで、話し方は劇的に変わる──。

人間は「物語」がとにかく大好き

「いいスピーチ」とはなんでしょう。感動する話か、反省を促すエピソードか、あるいはチームの気持ちを一つにするような物語か。プレゼンテーションであれば相手を説得する、という明確な目的があります。けれど、スピーチでは状況や役割、場面によって目的が変わります。目的がわからなければ、「いいスピーチとは何か」という問いには答えられません。

私は長年、広告のコピーライティングやスピーチ原稿の執筆を手がけてきました。いずれの仕事でも、「目的(Why)」「内容(What)」「手段(How)」の3段階で考えます。一番重要なのは、その広告やスピーチの目的である「Why to say」を考えること。次に「何を話すか」という「What to say」を決め、最後に「どう表現するか」という「How to say」を検討します。

特にスピーチでは「内容」や「表現」を意識しすぎて「目的」を忘れがち。そこさえ決まれば、中身は自然と見えてきます。たとえば、結婚式なら新郎新婦を立てるエピソードを手短に。部下の送別会なら仕事ぶりがわかる思い出話がいいでしょう。

では「部下の心を掴む」にはどんなスピーチが効果的でしょうか。私は著名人の演説やスピーチを分析したことがあります。ルーズベルト、ケネディ、ヒトラー、田中角栄、小泉純一郎。彼らの話し方には共通する法則がある。私はそれを「ストーリーの黄金律」と名付けました。いわば人の心を動かす裏技です。しかもこれは、スピーチだけでなく、ドラマやハリウッド映画などにも用いられる万国共通の感動のツボなのです。

人間は物語が大好きな動物です。文字が発明されるもっと前から、神話や民話が語り継がれてきました。ストーリーという形式が、人の記憶に残りやすく、心を動かすと実感していたのです。人間は他者と会話し、協力し合いながら生きています。物事を効率よく記憶に残るように伝えていくうえで、ストーリーは大きな力を発揮してきました。