軽口を叩いただけ、部下が不祥事を起こしただけ、疑われただけで、懲戒処分が下されることがある! ここでは最新の傾向と自己防衛術を紹介しよう。

捕まったら会社に残るのは至難の業

痴漢は、それが実際にやっていようと、冤罪だろうと、退職せざるをえないのが実情だ。冤罪なら戦えばいい、裁判になればすべてが明らかになるという考えは甘い。痴漢で懲戒免職された教員が冤罪を主張して5年以上争った末、懲戒免職を取り消す判決が言い渡されたケースはあるが、この件ですら痴漢が冤罪であるということは認められていない。裁判官もすべてが善良かというとそうではなく、裁判になった時点で、「どうせ触っているんだろう」と思って処理する場合だってある。実際どうであったかをちゃんと吟味する裁判官は、私の感触では10%ぐらい。そして、彼らが事件を担当したからといって、無罪放免というわけでもない。

毎日のルーティンである通勤中、多くの人は自分がどうしていたかなど覚えていない。原告の言い分と被告の言い分を天秤にかける以上、克明に事実を述べる原告の証言が採用されがちだ。だから裁判になる前にどうにかしたほうがいい、という結論が導かれやすい。もしも「この人、痴漢です」と言われた場合、おとなしく従うより、「私が触っていなければ、あなたを逆に訴える」とその場で大声で主張するなどしたほうがいいかもしれない。面倒な事件だと思えば、その場にいた周囲の人間も断片的な記憶で易々と証言しないだろうし、すぐさま逮捕ということにはなりにくい。

解雇における退職金の支給

痴漢冤罪の場合でも、いかにうまく会社を辞めるかが焦点になっていることが多い。会社に無理に残ろうとするほうが難しく、噂が広まってしまえば、その後、職場に戻っても偏見の目で見られるつらい毎日が待っているからだ。とはいえ、会社に絶対にばれないようにするのはかなり難易度が高い。当人が警察に拘束されていれば、家族が会社に連絡を取るだろう。そのとき、「あいつの奥さん、声が震えていたぞ。何かあったのでは」というふうになるからだ。それで上司が家に訪ねてきたりすれば隠し通せない。しかし、会社としても社員が痴漢で捕まったことを広めたくはないので、事情を話してしまえば、多くの場合、協力を得られる。情報が一部の人間でとどまっているうちに、会社の協力のもと、有休や急病扱いにするなどして、スムーズに退職手続きを進める。懲戒解雇でなければ退職金を出してもらえることは多い。

弁護士 野澤隆
1975年、東京都大田区生まれ。都立日比谷高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。弁護士秘書などを経て2008年、城南中央法律事務所を開設。
 
(構成=唐仁原俊博 撮影=小原孝博)
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